決してホラーな描写だけではない、家族の物語
ホラー好き界隈では『ホラー映画よりも恐ろしい』で知られる、昭和産の破傷風スリラー。闘病もののシリアスドラマではあるのですが、少女が病魔と闘う姿があまりにホラーすぎるということで、Filmarksの『似ている作品』にも『エクソシスト』が挙がっているほど。もはや少女が、悪魔にでも取り憑かれたかのような壮絶シーンはトラウマです…。
作品データ
【製作年度】1980年
【製作国】日本
【上映時間】114分
【監督】野村芳太郎
【キャスト】渡瀬恒彦、十朱幸代、中野良子 ほか
【鑑賞方法】U-NEXT、Hulu など
(鑑賞時にご確認ください)
解説・あらすじ
破傷風の女の子と両親の、病魔との闘いを描いたヒューマン・ドラマだが、野村芳太郎独特のオカルトテイストな演出により、すっかり和風エクソシストの様になってしまった。埋め立て地での泥遊びにより破傷風となってしまった女の子。死亡率が非常に高く、光、音などの刺激により激しい痙攣を引き起こすこの病気の看病は非常に困難で、母親は、その疲労により徐々に精神を蝕まれていく……(allcinemaより)
年齢制限は?
年齢制限はないようですが、ホラーに近いような描写もあるので苦手な方はご注意を…。
レビュー ( 2024・10・12 )
1、それは、ほんの些細なことが『はじまり』だった…
7年ほど前に1度鑑賞しているのですが、そのときはレビューを残しておらず見返したい思いもあったので、このたび再鑑賞。初めて見たときはとにかく、少女の恐ろしい描写ばかりに衝撃を受け驚いたのですが、2度目は両親の思いなどドラマ部分を落ち着いて鑑賞することができました。
大きな集合住宅の前に流れる川で、虫あみを持って蝶々を追いかける可愛らしい女の子が、泥を触っていた。その指には小さな傷とわずかな出血…。『はじまり』はこんな些細な、どこにでもある光景だった。ここからまさか、生死を左右するほどの壮絶な闘いが待っているとは…。
破傷風って今ではほとんど聞かないですが、こんなに恐ろしい病気なんですね…!?当時で2万人に1人という希少性ながら、罹患すると死亡率が非常に高い病なのだそう。この作品を見たら、子供に泥遊びなんてさせられなくなる…(;ω;)
劇中で使われている音楽が、これまた幽霊でも出てきそうにおどろおどろしいので、より一層恐怖に拍車がかかります。
2、何度見てもしんどい、少女の闘病シーン
破傷風というのは、ほんの少しの明かりや音など、刺激になるものはすべて発作に繋がるため、暗幕を下ろした真っ暗で静かな部屋でひたすら安静。しかしその間にも、予期せぬハプニングが幾度も起きる。
舌を噛み、口を血まみれにして奇声を発し、身体に力が入ったまま苦しそうな声を上げる娘。そのとき身体を海老反りのように反らせたりするアクロバティックな様相が、完全にホラーなんですよね…。『乳歯なら、また生えてくるからいいですよね(!?)』と医師に確認され、抜けても構わないと言わんばかりに、鉄製のヘラで血まみれの口をこじ開けようとする描写にはこちらも力が抜けました…(;ω;)
両親も病室内でどうすることも出来ずに、娘をただただ見守るしかない…。やっぱり、こんな目に遭っているのが、なんの罪もない、無垢な少女というのがほんとに耐えられないんですよね…。
そんななか両親も、娘と接触していたことによる自身の感染への疑惑に怯えるような描写も。感染もののホラー映画でもあるあるだったりしますよね。
3、両親の変化
入院2日目にして、母親は正気を失い始めたようにやつれ始め、父親も髭が伸びてきて悲壮感が漂う…。娘の発作の様子を、まるで象形文字のような図解で日記につけ続ける母親だが、あまりの壮絶な闘病生活に、医師たちに『(娘に)もう何もしないで!』と、つい本音が出てしまう。
そして夫婦はとうとう、決断する。
夫が冷静に妻に『よく聞け。昌子は死ぬ…そう思う。だから家に帰って家を片付けて、預金通帳などを整理しておけ。俺も発病する。片付けが終わったら寝ておけ。何かあったら連絡する』というやり取りは、もはや諦めというよりも覚悟に思えました。
さらに父親は、娘に『このままお前が死んだら、お前1人を愛する。…他に子供は作らない』と誓う。なんだかまるで、死にゆく恋人にでも言いそうな台詞に少しドキッとしてしまいました。
病人本人がしんどいのは勿論ですが、そんな姿を目の当たりにし、衰弱していく身内もそれ以上にしんどいものなのかもしれないですね…。
今回は珍しくネタバレはしませんので笑、ぜひこの先は見ていただきたいです。決してしんどいだけで終わる話ではありませんし、しっかりと得るものがあります。ホラーなエピソードが先行してしまう作品ではありますが、夫婦のドラマとしても素晴らしいです。
少女の祖母を演じたのは『となりのトトロ』のメーイちゃ〜ん!のおばあちゃんこと北林谷栄さんです。話し方もまんまで、聞けばすぐにわかります笑
4、役者たちの凄さ
なんと言っても、少女を演じている若命真裕子という子役の演技がとにかく凄くて、当然のようにネットでは『震える舌 子役』などと検索ワードが出てくるのですが、女優としての仕事は本作と『典子は今』という作品に出演されただけ?のようです。そして現在はなんと、医療従事者としてご活躍されているんだとか。
中野良子が演じた担当医師は、何が起きても物怖じせず、常に凛としていて好感が持てるキャラクターでした。
十朱幸代は、私の中で物心ついたときには『はごろもフーズのシーチキンの人』というイメージで(・ω・)女優としての演技は本作で初めて見たので新鮮でしたが、可愛らしかったです。
渡瀬恒彦も本作で初めて見たのですが、若い頃こんなにカッコ良かったんですね!?役も相まってなのか、夫だけれど男感があってかなり好みでした(なんの話)。冒頭なんてミニオンみたいなオーバーオール着てるのに(・ω・)
黒澤明監督から『日本一の助監督』と評価された、野村芳太郎監督
監督の野村芳太郎は黒澤明作品の助監督を務め、黒澤監督から『日本一の助監督』と評価されたのだそう。『砂の器』『鬼畜』など、サスペンス色が強い作風が多く、『震える舌』も監督独特のオカルトテイストな演出が出ているのだとか。
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