
正直、1度目の鑑賞では「えっ、これがアカデミー受賞作?」と、ポカーン状態だった私(・ω・)でも2度目に見て気づいたんです。これは「仮面をかぶって生きてきたアニー」が、ラスト15分で“アノーラ”という本当の自分に出会うまでの物語だったのだと。この記事では、後半からネタバレありでラストの意味や彼女の正体を考察。そしてなぜアカデミーがこの作品を選んだのかまで、私なりに深掘りしていきます。
作品データ
【製作年度】2024年
【製作国】アメリカ
【上映時間】138分
【監督】ショーン・ベイカー
【キャスト】マイキー・マディソン
マーク・エイデルシュテイン ほか
解説・あらすじ
第97回アカデミー賞で、作品・監督・主演女優を含む5部門を受賞した話題作。ニューヨークのストリップダンサーを主人公に、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の御曹司に見初められた彼女が波乱に満ちた怒涛の運命に巻き込まれながらも、どんな相手にも己の筋を貫きパワフルに立ち向かっていく等身大の姿を、刺激的かつ赤裸々な筆致の中にユーモアと温かな眼差しを込めて描き出していく。(allcinemaより)
年齢制限は?
R18指定なので、18歳以下の方はご覧になれません。
どこで見れる?
見放題 | 課金 | |
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Amazon プライム | ー | ● |
U-NEXT | ー | ● |
Netflix | ー | ー |
hulu | ー | ー |
Disney+ | ー | ー |
ゲオ宅配 レンタル | ー | ー |
レビュー ( 2025・05・08 )
1、1度目では刺さらなかった理由
アカデミー賞5部門受賞!でも…
アカデミー賞では、作品・監督・主演女優・脚本・編集の5部門を受賞するという快挙を成し遂げた本作。
とはいえ、正直、私の案件ではなかったので(苦笑)配信で良いかと劇場はスルー。
ところが先日『サブスタンス』を観たことで、あのデミ・ムーアを押しのけて主演女優賞を受賞したマイキー・マディソンと『アノーラ』に俄然興味が。
そんな中、U-NEXTでまさかの爆速配信。ただし、お値段は2750円という超・高級価格…。
それでも気になりすぎて、ポイントが貯まっていたこともあり、思い切ってレンタル(後で気付きましたが“レンタル”ではなく“購入”でした…)。
果たして、実質3000円の『アノーラ』はどうだったのかー?
2度目で”仮面”が見えてきた!
本作、2度観ました。そして1度目の感想はというと…
想像していたことが、想像通りに起きて、想像通りに終わったという、今世紀最大の「可もなく不可もない感」…(・ω・)
衝撃作というわけでもなく、がっかりでもない。ただただ「うん…うん…で?」みたいなw
けなすほどではないけれど、掘り下げる気にもなれず…。まさに“レビュー泣かせな作品”でした。
とはいえ、2750円で購入したのです。なんとかレビューを書いて成仏?させねば…!という執念で、2日後にもう1度鑑賞。
すると、1度目では見えていなかった「物語の本質」が、ラスト15分でようやく立ち上がってきたのです。
ストーリーの表層だけを追っていた1度目とは違い、2度目でようやく、
『あ、これ全部「演技」だったのかも…』と気づいて、アノーラの空っぽさにゾクッと。
そこにこそ、この映画の痛みがあった気がします。
「これは、1回では分からない作品だったのかもしれない」と、思い直すことができ「2750円、意外と悪くなかったかも…」と納得できました(笑)。
2、さっくりあらすじ
【前半】お花畑生活と即席の結婚
身体を使って稼ぐ仕事をしているアニー(アノーラ)は、出会ったその日にロシア人の御曹司”イヴァン”に見初められ、彼の邸宅に通うように。
そして、『1週間をともに過ごしたい』というイヴァンの申し出を受け、契約を結ぶことに。その後はもう、見ていてこちらが笑ってしまうほどの“ぶっ飛び豪遊生活”がスタート!
イヴァンの友人たちとベガスに赴き、まるでハリウッドスターのように現地で即席の結婚式を挙げてしまう。
現代のシンデレラ・ストーリーと言わんばかりの絶頂期。
もちろん、ここから暗い展開になるだろうと身構えていたのですが…。
【後半】イヴァン逃亡と、うるさすぎる追跡劇
2人の“新居”に、結婚を無効にしようと”イヴァン家の使い”であるガルニクとイゴールが乗り込んできます。しかし、事態を察したイヴァンはアニーを邸宅に残し、なんと1人で逃亡…!
残されたアニーは大暴れ、Fワードを連発しながらギャーギャーと叫び散らす様子は、もはや完全にコメディ。
彼女は“この手の仕事をする中でも利口でプロフェッショナルな女性”だと思っていたので、こんな子供っぽいキャラだったの…??と、驚きました。
イヴァンのアホっぷりがひどすぎて、相対的に彼女が大人に見えていただけだったのかもしれません。
さらに、“使い”のボスであるトロスも加わり、アニーと3人の男たちによるイヴァン追跡コメディが展開。
ただし、ベタすぎるギャグの応酬にはあまり笑えず…。
特に空気の読めないトロスは、まるでダニー・デヴィートのキャラを薄めたような雰囲気で、90年代のコメディ映画を彷彿と(・ω・)
しかもこのパート、けっこう長い…。
おじいちゃんのお菓子屋さんをメチャクチャにしたシーンは、個人的にかなり不快で許せず…。
そして、この先いったいどうなるのか?と思っていると…。
3、前半の違和感はすべて伏線だった?
物語は上映時間138分のうち、前半・後半パートが大部分を占めています。
正直、ここまでの展開だけなら「これでアカデミー賞とカンヌの二冠を獲ったの…!?」と戸惑ってしまうほど。
しかし本作の真髄は、やはりラスト15分。
この短いパートこそが『アノーラ』という物語の核であり、すべてがここに集約されていました。
つまり、前半と後半の奇妙な展開は、すべてラスト15分への布石だったのでは?という視点で見ると、作品の印象が一変するのです。
※ここから先はネタバレありで語ります。
まだ未鑑賞で気になる方は、(まだ高級価格ですが笑)どちらからでもすぐに視聴できます。
記事の最後にまとめてあります
想像通りなのに、何かおかしい結末
アニーたちはイヴァンを捕まえ、ロシアから彼の両親も到着。
イヴァンはアニーに対し「…離婚するに決まってるだろ」と冷たく言い放ちます。
…ここまでは、ある程度予想できる結末です。
でも、なぜか“納得できない”。何かが引っかかる。
そんなモヤモヤが、この映画を“よく分からない作品”にしているように思えました。
魅力ゼロの王子「イヴァン」
イヴァンは登場シーンからずっとフニャフニャしており、「こんなに魅力のない王子キャラは初めて」と思うレベル。笑
常に焦点が合っていないような表情と行動、不思議なテンション…。
『この人の年収と家柄がなかったら誰も相手にしないよね…?」感がすごい(・ω・)
アニーはこんなキャラだった…?
そしてアニーも、イヴァンが失踪すると別人のようにキャラが変貌。
「プロとして売れっ子だったよね?」と思っていたはずなのに、イヴァンに執着し、子供のように泣き叫び、嘘までつく。
もともと冷静で利口な女性だったはずの彼女が、あまりにも極端な変化を見せることに、かなりの違和感を抱きました。
4、アニーはすべて演じていた…!?
そして後半のアニーは、なんだかかなり“無理している”ようにも見え。
イヴァンの母親にまで詰め寄って『…家族の一員になれて嬉しいです』と言い放つ彼女の姿は、正直言って“共感性羞恥”が襲ってきました(やめて〜!!笑)
ーここで、ふと思ったのです…。
アニーは、最初から“演じていた”のではないか。
プロっぽく見せていたけれど、実際は何もコントロールできていなかった。
Fワード連発の“素”のような一面も、演技が崩壊した反動だったのかもしれません。
彼女には“芯”がなく、ただ生きるために、周囲に合わせてキャラを切り替えていただけだったのでは?
たとえば…
- 前半:プロらしく振る舞う“利口な顔”
- 中盤:傷ついて爆発、“虚勢と怒り”
- ラスト:もはや何も残っていない“空っぽな自分”
結局、「どれが本当のアニーか?」という問いには、「全部が仮のアニーだった」という答えしか残らないのかもしれません。
こうしてようやく、“すべてはラスト15分に向けた伏線だったのでは?”という見方が生まれたのです。
そして、ついに――
アニーが「アノーラ」になる瞬間が訪れます。
5、「アノーラ」誕生の名シーン
物語の核心である、ラスト15分。
イゴールとアニーが邸宅でふたりきりになるシーンから、作品のトーンはガラッと変わり、静かでどこか張り詰めた空気に。
私自身も、このパートからは画面にのめり込むように見入っていました。
タバコをさらりと渡し合い、交互に吸うふたり。
「前日が誕生日だったイゴール」「“アノーラ”の名前の由来」「言葉の意味で笑い合う」…。
これまでのふざけたコメディ調との対比があまりにも鮮烈で、まさにこの作品で最も重要なシーンだと感じました。
続く車中のラストシーン。
『ありがとう』のひと言を、どうしても素直に言えないアニーがとったのは、職業柄の“いつもの行動”。
こうするしか思いつかなかったのか。
お礼を言うのが恥ずかしかったのか。
けれども、これまでのように客に奉仕するような流れから一転、イゴールがキスをしようとすると、それを全力で拒絶。
そして、堰を切ったように彼の胸で泣き出してしまう──。
この瞬間、初めて「真のアノーラ」が露わになります。
彼女の身に起きた、明らかな心の変化。
それはきっと、彼女がこれまで経験したことのない、心の動きだったはず。
- イヴァンから受けた仕打ちの悲しみから?
- 今の生活への恥ずかしさ?
- 人として初めて触れた“まっとうな優しさ”への感動…?
あるいは、そのすべてかもしれません。
ただひとつ確かなのは、彼女はもう、これまでと同じ生活はしないだろうということ。
そして、あれほど「アノーラ」と呼ばれることを嫌がっていた彼女が、これからは自らそう名乗る気さえして…。
エンドロールに音楽はなく。無音のなかに響くワイパー音が、ずっと耳に残ります。
なぜイゴールは“あの行動”をとったのか?
常に何か言いたげだけど、空気を察して多くを語らないイゴールというキャラクター。
でも、このテのキャラはたまに発する一言の重みが凄いんですよね。
アニーを見守る“お兄ちゃん”のような立ち位置でしたが、イゴールが彼女に対し、なぜこれほどまでに気に掛けるのかという描写がちょっと少なかったかなぁ(!?)とも…。
初めは単なる同情だったのかもしれませんが、彼女に対して人としての興味を持ち始めていたのは確かで。
2度目の鑑賞ではここに注目していたのですが、アニーのイゴールに対する態度を見ていても、「彼が好意を抱くような描写は…あったっけ?」と首を傾げる場面も…笑
ただ、ラストの車中の“あの仕草”──
キスしようとしたかに見えたあの瞬間は、イゴールなりに“彼女が何を求めているか”を試したのかもしれません。
結果として拒絶されたわけですが、彼はそこで一切押しつけず、ただ静かに受け止めて、彼女の涙を抱きしめるように支える。
この一連の流れが、イゴールという人物の優しさと懐の深さを象徴していたように思います。
なぜイゴールのパートが短いのか
「ああ、監督はこれがやりたかったんだな…」と、思った瞬間。
…と同時に、「なぜここにもっと時間を割かなかったのだろう?」という疑問も湧きました。
1度目に観たときは、どう考えても各パートのバランスがおかしいように感じたんですよね。
コメディパートを削って、イゴールとのシーンをもっと丁寧に描いていれば、より深く感情移入できたのでは?と。
でも2度目に観て気づきました。…これ、わざと短くしてるんだと。
もしこのイゴールとの交流をたっぷり描いてしまったら、この映画は「変わりゆくアノーラの物語」…つまり、“感動ストーリー”になってしまう。
でも、そうじゃない。
この映画は、どこまでも「アニーの生活の断片を切り取っているだけ」なんですよね。
救いの気配は見せるけれど、ハッピーエンドにも、再出発にも、恋にも、しない。
それが、“何かの始まり”かどうかは描かない不確かさこそがリアルであり、現代的。
だからこそ、このパートは“短く”抑えられたのではないかと。
そして、感動や希望を安易に与えないこのリアルさこそが、本作が評価された理由のひとつだと思います。
次章では、その“描かれなかったこと”について、さらに深掘りしていきます。
6、描かれない彼女のバックボーン
アノーラという人物について、本作ではバックボーンがほとんど描かれません。
これは、観客の“共感”を遮断するような構成ですが、同時に、監督が意図的に排除しているようにも見えました。
では、なぜ過去を描かないのか?主な理由は以下の3つだと考えます。
① 背景があると「理由」ができてしまうから
過去を見せれば「可哀想だから」「家庭環境が…」などと、観客が勝手に整理してしまう。でもこの映画は、“今の彼女”だけを見てほしいという、突き放した描き方をしている。
② 人の選択に明確な理由なんてないから
彼女の行動は、理屈や環境ではなく「空気や感情で決まるリアルさ」を体現しているように感じました。
③ 被害者キャラにしないため
「こういう事情で体を売ってます」と描いた時点で、彼女は“哀れな存在”になってしまう。でもアノーラは、「そうして生きている人間」として描かれている。匿名性があるからこそ、普遍性も感じられる。
とはいえ、これは結構リスキーな設定でもありますよね。背景がないぶん共感は生まれにくく、私も1度目の鑑賞では見事に
「”ぽい”女の子が、わかりやすい富豪に見初められて、まんま捨てられる想像通りの展開やん」
くらいにしか思えませんでしたから(・ω・)※あくまで初見の印象です。
でも、あえてそう描いたことで、彼女の「何もなさ」や「空虚さ」がより際立っていたのかもしれません。
7、現代のアカデミーが求めた視点
アカデミー賞受賞が異例な理由
たしかに、ラスト15分は印象的な名シーンでした。
ただ、テーマはかなりナイーブですし、描写もなかなかハード。
カンヌのパルムドール受賞作には『チタン』のように“攻めた”作品もあるので、正直そちらは納得なんですが─。
アカデミー賞でR18作品が作品賞を獲るのは、かなり異例だと思います。
そこで気になってくるのが、「なぜ本作が評価されたのか?」という点です。
なぜ、評価されたのか?
おそらく、今年のアカデミーは…
- 「女性の自立と選択」をテーマにした作品を推したかった
- 派手さよりも、“リアルな生”を淡々と描くスタイルを評価したかった
そして、本来なら受賞最有力だったと言われる『エミリア・ペレス』が、諸事情により圏外に…。
この『エミリア・ペレス』も“自己のアイデンティティと再出発”をテーマにしており、『アノーラ』と思想的に通じるものがあります。
『アノーラ』は「現代のシンデレラストーリー」とも言われていますが、その描き方はあくまで淡々としていて、劇的なカタルシスや救いは描かれません。
でも、そこが現代的なんだと思います。大きな成功や救済の物語ではなく、ただ“いまを生きている”ひとりの女性を見つめる物語。
だからこそ、アカデミーはこの映画を評価したのではないでしょうか。
時代の空気感に寄り添った作品であり、それが“選ばれた理由”だったのかもしれません。
8、キャストの素晴らしさ
マイキー・マディソン(アノーラ)
デミ・ムーア推しだった私からすると、少し斜に構えて見始めたのですが、マイキー・マディソンはめちゃくちゃ良かったです(・ω・)
いわゆる美人というより“人間力”で引き込むタイプ。イヴァンに、プロとして接する話し方や振る舞いにもすごく色気があり、釘付けでした。
笑ったときの目元&口元の親しみのある崩れ方が、なんだか浜口京子に似てません…?
素朴なのに見てるうちにどんどん可愛く思えてきて、鑑賞後は彼女のインタビュー映像やインスタまでチェックw
役によってすごく化けそうなので、今後女優としてさらに大成しそうですよね。
彼女が出演した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『スクリーム』は見ているのですが、記憶になく…(;ω;)
デミ・ムーアがオスカーを逃してしまったことは残念でしたが、受賞してくれたのがマイキー・マディソンで良かったです。
マーク・エイデルシュテイン(イヴァン)
ロシアのティモシー・シャラメと言われているらしい”イヴァン”ことマーク・エイデルシュテイン。
まぁ、彼の場合は役のインパクトが大きすぎて、もはや外見どうこうではないのですがw
オーディションでは、富豪に見える服を持っていないので裸で出演したとかで?すでに役のキャラクターになりきってるじゃねーかwという。
いやでも、あのパッパラキャラクターも、ある意味才能ですからね(・ω・)
ずーっと、あんなに絶妙な”フニャフニャ感”出せないですもん。
お菓子屋さんのおじいちゃんに”即興ラップ”を浴びせる空気感と謎のシュールさは、唯一声を出して笑いましたw
案外これから、イメージが真逆の役なんか演じたりして、『これがあの”イヴァン”…!?』となる作品を楽しみにしています♪
ユーリー・ボリソフ(イゴール)
何と言っても、陰の主役はこの人。まさに“静かなる支え役”という感じ。
実際、アカデミー賞でも助演男優賞にノミネートされましたが、正直この役でノミネートされたのは凄いと思いました。
スキンヘッドがすごく似合ってるんですが、デイン・デハーンとジェームズ・マカヴォイを足して2で割ったような端正な顔立ち。
彼の出演作では唯一『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』を鑑賞しているのですが、Filmarksにはクレジットされていないようで…端役だったのでしょうか。
かなり気になる俳優さんになったので、次はこちらも話題の『コンパートメント No.6』を鑑賞してみたいと思います!
話題のトンデモ怪作⬇︎