【ボーはおそれている】オデッセイスリラー【ネタバレあり】

人を選ぶ、ブラックユーモア満載な不条理スリラー

ボーはおそれている
(映画.comより)

今やA24の看板監督でもあるアリ・アスター監督の新作だというのに、オスカーは完全スルー。でも私は『こういうのが見たかった!』というくらいツボでしたw コメディは苦手でなかなか合うものがないのですが、ボーが最悪の状況を回避しようと頑張った結果、何をやっても仇になってしまう不条理さ。人工的な笑いでなく、自然の流れから笑える状況に持っていくのはさすがだなぁと思いました。この記事は、ほぼあらすじ形式で送ります(笑)。

作品データ

【製作年度】2023年
【製作国】アメリカ
【上映時間】179分
【監督】アリ・アスター
【キャスト】ホアキン・フェニックス、パティ・ルポーン ほか
【鑑賞方法】Amazonプライムビデオ、U-NEXT など
(鑑賞時にご確認ください)

あらすじ

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。(映画.comより)

年齢制限は?

R15指定なので15歳以下の方はご覧になれません。



レビュー ( 2024・2・20 )

1、家の中で繰り広げられる、不条理コント

自分の家なのに、入れないボー(笑)
(映画.comより)

本作は4章に分かれているのですが、3時間という上映時間がキレイに4等分されています。オデッセイスリラーなんてジャンルも初めて聞きましたが、オデッセイは『長い冒険旅行』という意味らしいので、内容そのままですね。

いやもう、劇場でこんなに笑いをこらえた作品記憶にないかもしれません…。少し外出するにも命懸け。外にはほぼ全裸で踊る男性に、完全全裸の連続刺殺魔。…ってどんな世界やねんw マンション帰宅時の駆け込みファイトももうサイコー!そういうことだったんですね。

駆け込みファイトに負けてしまって赤の他人がボーの自宅に不法侵入、乱癡気のやりたい放題ww人の自宅でモノ壊してケンカや殺人やら…と思えば、料理食べたあとの食器洗ってしっかりフキンで拭いてる人もいたりと、カオスすぎる。そしてそんな様子を、マンションの足場にしがみつきながら見守ることしか出来ないボーw 

『水と一緒に飲んでください』の薬を水なしで飲んでしまい、パソコンで『水なし 薬 死ぬ』とか検索してるのも可愛すぎて悶絶w このあたりで、コレ『おぱ◯ちゅうさぎ』じゃね?と。今や大人気となったおぱ◯ちゅも、不条理で悲惨な目に遭うのが可哀想&可愛いで、コンセプトはボーとほぼ同じですよね(・ω・)

ホアキンのオスカーノミネートはあっても良かったのでは…?

本作がオスカースルーだったとは言え、ボーを演じたホアキンの演技は凄いです。あらゆる困惑の演じ分けはとても繊細で、こんな演技も出来るのだと驚きました。

2、医師一家による、不条理軟禁劇

一見、良い人たちに見えたのだが…
(映画.comより)

自宅でゆっくりとお風呂に入っているボー。しかしなにか違和感を感じ上を見ると、天井になぜか張り付いている男性がww 張り付き男にビビり散らかしたボーは(もはや細かく書いてたら永遠に終わらないので割愛)全裸のまま外に飛び出し車に轢かれてしまう。が、車を運転していた持ち主の自宅で手厚い看護を受ける。

ここもわりと好きなパートで、一見善人にも見える夫婦なんですが、早く自宅へ帰りたいボーに反してなんだかんだとそれっぽい理由をつけ、帰してくれない不条理劇が開幕。

そしてボーに自室を奪われた長女は、当てつけといわんばかりにボーの目の前でペンキを飲んで自死!長女を介抱していたのに、母親からアンタのせいだと因縁をつけられ家を飛び出すボー!しかし後には、母親が放った刺客がボーの後を追うのだった(一体なんの話やねんw)

夫婦が面倒を見ている退役軍人役に、ドゥニ・メノーシュ
(wikipediaより)

これまた強烈でユニークな退役軍人を演じたのは、近年ミニシアター系の良作に数々出演しているドゥニ・メノーシュ。その存在感のある見た目から、一度見たらまず忘れません。直近で見た『理想郷』もしんどいお話でしたが、なんと言っても『ジュリアン』の父親役は、怖すぎて本当に涙が出ました…(;ω;)

3、森の劇団と、ボーのトリップ劇

劇のシーンも、まるで絵本の世界のようでステキでした
(映画.comより)

森へと逃げ込んだボーは、各地を転々としている森の劇団に遭遇。この雰囲気もすごくスキで、実際にこんな劇団に出くわしたらぜひ劇を鑑賞したい!ここでひとまず劇を鑑賞するボーですが、劇の内容が自身の生い立ちとかぶり、そこからボーの妄想劇へと突き進んでいきます。現実世界と幻想世界がとてもシームレスに描かれていて、スッと入り込むことができました。

とにかく母親に抑圧されて育ったボー。女性経験もないボーですが、妄想劇の中では3人も子供がいたのでした…。自身でも気づいていなかった、憧れの表れでもあったのでしょうね。

4、ボー、自宅へ帰還。初めての性の悦びと母親のドッキリ

ボーの少年期。人並みに恋を経験します
(映画.comより)

私はてっきり、なんだかんだあってボーが家に帰ることが出来ない話だと思っていたので、家に帰れたんだ!?と、むしろビックリ。すると母の葬式にボーの初恋の女性が現れ、そのまま体の関係に…。しかしなんと、彼女のほうが亡くなってしまいます(色々あるが割愛w)。

さらには死んだハズの母親が現れ、すべては仕組まれていたことが発覚…!てっきりコレもボーの妄想なのかな?なんて思ったりもしたのですが、ここはそのまま受け取っていいんでしょうか…。

極めつけは屋根裏の『パパ』の姿がアレって、どういうこと(笑)!?このシーンこそ、ボーの妄想なのかと思いきや、これも現実…なのでしょうか。このあたりからより一層カオスな世界に突入していくので、もはやどう見たら良いのかがわかりませんでしたw

5、あまりに酷い、裁判の結末…

ボートに乗って逃げ出したボーは、気付けば洞窟のようなところに。そして灯りが点くと、そこにはギャラリーがたくさんおり、ボーの罪を問う裁判劇に。母親に酷いことをしたり、その他もろもろあったみたいですが(私の集中力が切れましたw)とにかくボーは有罪に。乗っていたボートも爆発し、転覆ポカーンなエンディング(・ω・)

何をどうするのが正解だったのか…いや、何をどうしても報われず、おそらくこの世に産まれてきたことが間違いだったとしか思えない、ボーの人生…あまりに不条理…(;ω;)

ボーの初恋の相手が、パーカー・ポージーだった!
(映画.comより)

私が個人的に驚いたのは、ボーの初恋の女性を演じたパーカー・ポージー!本作で久々に見たと思ったら、なかなかスゴい役でしたw 『ブロークン・イングリッシュ』では恋に悩む等身大の女性を演じていたのですが、こんな役を演じるようになったんだ!とビックリ。なぜ彼女がこの役に抜擢されたのかも興味があります…。

6、監督自身がユダヤ人ということで、ユダヤ教が反映されているらしい

しかし3時間もかけて、こんなにも報われないお話を面白おかしく、ファンタジックに、シュールに見せるアリ・アスター、やっぱりスゴいです(笑)。ホラー好きなのに『ヘレディタリー』『ミッドサマー』がそこまでハマらなかった自分からしたら、本作が最も好きなテイストでした。

ちなみに、見知らぬ他人に家を占拠される話というと、ダーレン・アロノフスキー監督の『マザー!』を思い出しました。『マザー!』の主人公であるジェニファー・ローレンスは占拠されたことに激怒しますが(当たり前)ボーは怒ることも出来ずに、ひたすら見守ることしか出来ません。それどころかボーは全編を通して困惑こそすれど、怒りを見せない。彼の対処は『逃げる』のみなんですよね。これには母親の育て方も影響していると見られます。

アリ・アスター自身がユダヤ人ということで、どうやら本作にはユダヤ教がかなり反映されているようです。行く先々で迫害を受けて地を追われた彼らとボーは、確かに同じような経緯を辿ります。このあたりの事情に詳しい人は、もっと詳細まで楽しめるかもしれませんね。

アリ・アスターのコメディセンスには驚いたので、今後もついて行きます(・ω・)/

アリ・アスター監督の次回作にホアキン・フェニックス&エマ・ストーン

アリ・アスター監督の次回作もホアキンが出演ということで相当監督に気に入られたようですが、共演にはなんとヨルゴス・ランティモス組のエマ・ストーン!今度こそ?オスカーに絡んでくるかもしれませんね。

(映画ナタリーより)

アリ・アスター次回作は現代の西部劇、ホアキン・フェニックスやエマ・ストーン出演(映画ナタリーより)



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