
全編が犬視点という「犬も好き。ホラーも好き」な人からしたら、これ以上ないほどのご褒美映画。ただ、話すわけでも謎を解き明かすわけでもない「等身大」の犬目線なので、受け身の展開が多いです。正直なところ内容的には73分が限界ではありますが、それでも、インディの「……何かいる?」という絶妙な表情と健気さだけで、犬好きは涙目になったり、興奮したりと大忙しに▼・ω・▼
作品データ
【製作年度】2025年
【製作国】アメリカ
【上映時間】73分
【監督】ベン・レオンバーグ
【キャスト】
インディ、シェーン・ジェンセン ほか
あらすじ
病を抱える飼い主トッドと、祖父が生前暮らしていた家へ移った愛犬インディ。やがてインディは、人間には見えない不気味な存在を感じ始めるが。
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたもご覧になれます。
どこで見れる?
7月10日(金)より劇場公開中。
(※鑑賞時にご確認ください)
レビュー【ネタバレ】
1、犬は無事です……が。
以前から話題になっており、個人的にもとても楽しみにしていた本作。全編犬視点のホラーだなんて、犬も好き!ホラーも好き!な人からしたら、これ以上ないほどのご褒美映画。
ところが公開日にFilmarksを開くと……3.2。これはハズしてそう?だけれど…「ホラー」を観るというより、「インディ(犬)」を観るので、大丈夫?です。
そして実際に観終わった感想はというと……想像以上に面白かったです!
もちろん、ストーリーをグイグイ引っ張るタイプではありません。あくまで「犬が主人公」の実験的な作品なので、人間側の事情や怪異の正体を細かく説明する映画ではないんですよね。
でも、犬の目線までカメラを下げ、犬だから見えるもの、犬だから怖いものだけで73分を成立させたのは、かなり面白い試みだったと思います。
犬好きだからこそ、辛い…?
もう、ひたすらに!……インディが可愛すぎる。
劇場にほとんど人がいなかったのをいいことに、「(あああ可愛い……)」などと小声でつぶやいたり、涙目になったりと?楽しい時間を過ごせました。
…犬好きなら、インディの表情や仕草だけでも十分観る価値があると思います。ただ、この可愛さがそのまま切なさにも繋がっているんですよね…。
怪異に怯えてベッドの下へ隠れたり、気が立っている飼い主に追いやられてもしょんぼりと見つめていたり、雨が降っても怖くて犬小屋へ入れず、びしょ濡れに…(ここがもうほんとにムリ…)。
ホラー映画なのに、怖いというより「…インディ、あああ(!?)」と、(私が)取り乱してしまう場面の連続。
可愛い一方で、「犬がずっと怯えている姿」は想像以上にキツくもあり。犬は無事でも、犬好きだからこそ少し辛い映画でもある、不思議な1本でした。
2、想像以上にホラーだった
慢性肺疾患を抱えるトッドは、愛犬インディを連れ、亡くなった祖父が暮らしていた森の古い家へ引っ越してきます。しかしインディは、到着して間もなく家の中に得体の知れない気配を感じ始めるーー。
全編犬視点ということで、正直「犬が何もない場所を見つめる」「急に唸る」といった、気配だけで押し切るような?雰囲気アート作品を想像していました。
ところが実際は、これが思った以上にしっかりホラー。怪異の”姿”まで見せたのは、ちょっと驚きでした。
誰もいないはずの家で物音が響き、暗闇の奥に何かが立っている。インディが見る悪夢もかなり本格的で、階段を何者かがものすごい勢いで上がってくる場面には、普通にビクッとしました。
犬が夢の中で怯え、ハッとして目を覚ます描写も面白いです。犬もこんな怖い夢を見るのかな……と考えたら、ここでもまた急にかわいそうになってくるのですが…(え)。
幽霊犬と泥まみれの死の影
祖父が生前飼っていた犬の幽霊も現れ、インディはその後を追っていきます。人間が幽霊を見る映画は山ほどありますが、犬が犬の幽霊を見るという絵はかなり新鮮でした。
そして現れるのが、全身真っ黒な泥らしきものにまみれた人影。こんなクリーチャーが出てくる映画、見たことありますね。
犬映画のつもりで観に行ったら、想像以上に怖かったのは得した気分に。笑
3、犬視点を徹底した、強みと弱点
この作品はホラーとして観ると、怪異の正体や祖父の家で起きた出来事など、多くの謎が明確には語られません。
とはいえ、それも当然なんですよね。主人公は犬なので(笑)。人間のように家を調べたり、過去を探ったり、誰かから事情を聞いたりなんてできるわけがありません。
そのため、インディは終始「何かがいる」「怖い」「逃げる」という受け身の行動が中心になります。
ベン・レオンバーグ監督も、「インディに超能力や人間のような理解力を持たせるのではなく、あくまで普通の家庭犬が本能や感覚で怪異に反応する物語」として描いたと語っています。
なので本作は、単にカメラを犬の高さまで下げただけではなく、「犬に理解できる範囲の世界だけ」で物語を進めること自体が狙いだったのです。
ホラー映画としては物足りなく感じる人がいるのも分かりますが、普通の主人公なら説明されるはずの謎が分からないまま残るのも、この作品では欠点というより、犬視点を徹底した結果なのだと思います。
犬視点が残した物足りなさ
一方で、せっかく全編犬視点だからこそ、もう一歩踏み込んだ描写も見てみたかったという気持ちもあります。
例えば、犬ならではの鋭い嗅覚や聴覚をもっと物語に活かしたり、人間には分からない異変をインディだけが追っていくような展開があっても面白かったかもしれません。
基本は受身のインディなので、エピソードとしては、似たようなことの繰り返しになってしまったのも事実。
ただ怯えて逃げるだけではなく、「犬だからこそ物語を動かせる瞬間」がもう少しあれば、この作品ならではの魅力はさらに増したようにも思います。
とはいえ、このコンセプトを73分で1本の映画として成立させたのは十分すごい。正直、この展開で持たせられるのも73分くらいが限界だった気はしますが(笑)、実験作としてはかなり満足できました。
4、祖父の犬も飼い主を守ろうと?
トッドの祖父も、トッドと同じように激しく咳き込み、同じ病気を患っていたことがうかがえます。
さらに近所の人が「あんな死に方だったしな。犬はいなかったが…」と意味深な言葉を口にしていたことからも、祖父もまた”普通の最期”ではなかったよう。
祖父の犬を目にしたインディですが、結局地下で、犬は白骨となって見つかります。
あの先代犬も、インディと同じように祖父を守ろうと必死だったのではないでしょうか。結局は救えませんでしたが、その想いがインディへと受け継がれていたと考えると、あの幽霊犬の存在にもちゃんと意味があったように感じられます。
死の影に連れ去られたトッド
ラストでは、トッドは病気によって命を落とします。
ベッドには亡くなったトッドの肉体が横たわり、その一方でインディと再会した”もう1人のトッド”は、黒く泥に覆われた人影に連れ去られていきます。その際、指先からゆっくり黒く染まっていく描写も印象的でした。
あの存在はトッドを殺した怪物ではなく、死そのものを象徴した存在だったのでしょうね。
そして最後に残されるのは、人間ではなくインディ。
怪異に怯えながらも最後まで飼い主のそばを離れず、泥だらけになって生き延びたインディをトッドの妹が「無事だったのね、おいで」と呼び寄せるラストは、ホラー映画でありながら思わず胸が熱くなりました。
可愛いだけでも、怖いだけでも終わらない。犬だからこそ描けた、少し不思議で切ない1本でした。
素人犬「インディ」は名優だった
本作でインディを演じたのは、監督ベン・レオンバーグが実際に飼っている愛犬であり、俳優犬ではないんですよね。
なので撮影は約3年、400日以上にも及び、インディの自然な反応を最優先に進められました。
カメラの前で演技をさせるのではなく、「今日はその気じゃない」となれば無理に撮らず、興味を示した瞬間や自然な表情をじっくり待つという、まるでドキュメンタリーのような撮影方法だったそうです。
YouTubeではメイキングがアップされており、監督がおどけたりしてインディの気を引こうとしている姿が見られます↓笑
なので本作には、いかにも「演技しています」という分かりやすい喜怒哀楽ではなく、「……ん?」「あれ?」と何かに気づいたような視線や、不安そうに耳を動かす仕草など、絶妙な表情が詰まっているんですよね。
そしてその演技は高く評価され、第9回アストラ映画賞ではイーサン・ホークやサリー・ホーキンスら名優を抑え、「ホラー/スリラー映画部門 最優秀演技賞」を受賞。動物として史上初となる快挙まで成し遂げています。
犬好きなら、その名演技を見るだけでも一見の価値がある1本です!


