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公開時に観客が殺到したと話題になった、高齢者の買春クラブを扱った実話の映画化。メインのジャケットはかなりドキッとしますが、マイルドなこちらに…笑。題材からイロモノ映画と誤解されそうですが、なんとも社会派な衝撃作でした…。
作品データ
【製作年度】2022年
【製作国】日本
【上映時間】135分
【監督】外山文治
【キャスト】岡本玲、アサヌマ理紗、渡辺哲 ほか
【鑑賞方法】U-NEXT、Amazonプライム など
(鑑賞時にご確認ください)
解説・あらすじ
2013年10月に高齢者売春クラブが摘発された事件を元に、超高齢化社会の現代日本が抱える閉塞感や寂しさなど、さまざまな問題を反映して描いた群像ドラマ。佐々木マナは、仲間とともに高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」を設立し、新聞に掲載した「茶飲友達、募集。」の三行広告で集まってきた男性たちのもとへ高齢女性を派遣するビジネスをスタートする。(映画.comより)
年齢制限は?
PG12指定なので、12歳以下は保護者同伴が望ましいとされます。…が、ハッキリ映らないとはいえ、ストーリー上『そういうシーン』はあるので少し考慮が必要かもしれません。
レビュー ( 2024・11・02 )
1、どんなお話?
高齢者向けの売春クラブを題材とした、実話の映画化。クラブの経営者やスタッフ、『ティーガール』やその顧客など、様々な視点から描かれた群像劇となっています。
高齢者、若者、家族問題、金銭問題、就職、孤独…。
どれかのワードに引っかかる人ならば、かなり刺さる話だと多います。というより、一つも当てはまらない人などいないかもしれません。正直、ここまで深く切り込んでいる話だとは思わず、想像以上に驚きました…。
新聞に小さく掲載された『茶飲み友達、募集』という文言と電話番号が添えられた、たった3行。しかしここから、1350人もの顧客を増やしていったという事実に、現代の高齢化社会の孤独の闇が容易に見てとれます。
「三行広告を出したこと、新聞を見て会員になった人が1000人以上もいたことだけを残して、ストーリーの展開は全部オリジナルです」(fumufumu news より)
…と、監督が言っているように、物語は事件の設定を借りたほぼフィクションのようです。
2、お金で繋がった『ファミリー』
妻に相手にしてもらえない者、妻に先立たれた者、子供と疎遠になっている者など…利用する顧客の事情は様々。寂しい毎日を送っていた彼らが、クラブの存在によって人生に彩りを取り戻していく。
そして『ティーガール』もまた、ギャンブルや家族問題など、それぞれに悩みを抱えています。もちろん彼らのしていることは犯罪行為なのですが、そこには確かに人生の再起を図り、本物の家族かのような『ファミリー』がありました。
クラブの代表であるマナは、働くスタッフや顧客の幸せを確かに考えていましたし、それは決して嘘ではなかった。彼女に、スタッフたち全員が救われていたのだから…。
ところが一転、自身が逮捕されるかもしれないとなると皆逃げ出してしまい、後には何も残らなかなかったという皮肉。結局は、お金で繋がっているだけの『ファミリー』だった…。
3、松子というキャラクター
群像劇のなかでも、メインとして描かれた松子というキャラクター。人生に絶望し、一度は生きることを諦めようとしていたが、マナによって助けられる。
『コールガール』として生きる活力を見出した松子にとってマナは命の恩人でもあり、本当の親子のような絆が生まれていた。マナ自身も、母親との関係が上手くいっていなかったのです。
しかし、そんな松子との『結末』は、かなり手痛いものだった…。
『…マナちゃんが1人で捕まれば、それで済むじゃない…マナちゃんと出会わなければ良かった…』という台詞には、正直私も耳を疑ってしまいました。しかしそれは、松子の100%の本心ではないようにも思えたのです。
結局松子は、若くてキラキラしているマナから、ずっと見下されていたと思っていたのかもしれない。1度でも死ぬ覚悟をしたほどの人間の気持ちが分かるのは、同類だけなのでしょう。
だから松子も、お客さんの『自死』を黙認した…。私も最初は、あのタイミングなら助けられるのに(??)と思いましたが、彼女からしたらこれが『助けた』ということなんですよね。1人で死ぬのは怖い、だからせめて誰かと一緒にいるときに…。
劇中では、松子の黙認事件によって『ファミリー』が崩壊し、クラブが明るみになってしまいます。
4、寂しさを人の孤独で埋めてはいけないのか
マナは、女性警官から『孤独だったのはあなたでしょ?自分の寂しさを人の孤独で埋めないで…』と言われてハッとしていましたが…それは、そこまで悪いことなのでしょうか。
例えばYouTubeでは、貧困のひとり暮らしの動画はかなり再生数を集めていたりします。それは決して蔑みたいという思いなどではなく、自分よりも下の生活を見て『安心したい』という思いや、もちろん応援したいという思いだってあると思います。結局動画を上げている彼らからしたら、どんな理由であれ、見てもらえることに意義があるのではないかと…。
たとえマナが、気付かぬうちにティーガールたちの荒んだ生活を利用していたとしても、彼女らに手を差し伸べ応援したいと思っていたことは事実で、それ自体は決して悪いことだったとは思いません。
結局捕まったマナの元に現れたのは、あれだけ憎んでいた実の母親だけだったという皮肉。正直ここはちょっと、映画だなぁと感じてしまいましたが…。あの母親なら、おそらく面会には来ないだろうと。
物語の結末はこうなってしまいましたが、マナがクラブを作らなければ、多くの人が絶望の淵に立たされたままの生活を送っていたことでしょうし…この世にはいなかった人もいることでしょう。
苛立ちや衝撃、共感や感動など、あらゆる感情を色んな角度から揺さぶられた本作。
誰にでもオススメできる内容ではないかもしれませんが、鑑賞した人には必ず得られるものがあるはずです。
5、実在の事件について
実際にクラブを経営していたのは70歳の男性ということで、設定はかなり脚色されていますね。
着想のもとになったのは2013年10月に報道されたニュース。男性が約1000人、女性が約350人という会員数の「高齢者売春クラブ」が警視庁に摘発されたというもの。最高齢は男性が88歳のおじいちゃんで、女性は82歳のおばあちゃん。(fumufumu news より)
そして経営者は『希望者にはこの文言で伝わる』として、あえてシンプルな広告にしたそうですが、こんなところでビジネスの才能にもちょっと感心してしまうのでした笑。実際にかなり集まっていますしね…。ネットではなく『新聞』にしたのも良かった気がします。
ちなみに劇中では、顧客に話を進めていくうちに『違うコース』もあることを伝えると、大抵はそちらのコースに移行していくとのことでした。
作品に関する監督のインタビュー
作品のヒットの裏側、撮影や『ティーガール』のオーディション秘話などが詳細に語られています。ご興味ある方はぜひ。
♦︎ 高齢者売春クラブを描いた問題作『茶飲友達』に観客殺到! カメ止めブームの“シニア版”が、たった1館から全国拡大公開へ (fumufumu news より)
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