
空港大橋で孤立してしまった人々の“ただの脱出パニックもの”だと思っていたら…まさかのオプションが!この要素にノれるかどうかで評価が分かれるかもしれませんが、パニック映画好きなら十分に楽しめる水準はあるはず。本作はイ・ソンギュンの遺作とも言われており、改めて惜しい俳優を失ったな…と感じさせられました。
作品データ
【製作年度】2023年
【製作国】韓国
【上映時間】96分
【監督】キム・テゴン
【キャスト】イ・ソンギュン
チュ・ジフン ほか
あらすじ
海に囲まれた空港に渡る大橋を舞台に、さまざまなアクシデントによって崩落寸前となった橋の上で起こる危機を描いた韓国製パニックサスペンス大作。(映画.comより)
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたもご覧になれます。
どこで見れる?
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Amazon プライム | ー | ● |
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ゲオ宅配 レンタル | ー | 8/6 レンタル開始 |
レビュー ( 2025・02・28 )
1、久々にパニック映画で興奮

パニック映画も大好きなのでかなり見ているほうだと思うのですが、私の中でのパニック映画の金字塔と言えば『新感染』。
正確には感染パニック映画なのですが、この作品以降、洋画・邦画含めても未だにこれを超えるホラー映画が出てこない、とホラー好きの知人ともこぼしてます…笑
- 毒ガスパニックの『EXIT(19)』
- 噴火を描いた『白頭山大噴火(19)』
- ウイルステロの『非常宣言(20)』
- マンション一棟がそのまま地下へと沈む『奈落のマイホーム(20)』
こうした「テンポの良さ×人間ドラマ」というバランス感覚は、韓国パニック映画が得意とする王道スタイルでもあります。
上記に挙げた『EXIT』『白頭山大噴火』『非常宣言』など、危機的状況のなかで人間の絆や成長を描く作品が多く、本作もその系譜にしっかり連なっている印象。
ただし本作がユニークなのは、そこに”国家の秘密”や“兵器化された生物”という一風変わったモチーフを持ち込んだことで、よりSF寄り&風刺的な雰囲気も漂っている点。
その点では『THE WITCH/魔女』シリーズや『SEOBOK/ソボク』などの作品とも共鳴しています。
さらに本作は、超ド級の映像により、しっかりとアクションも体感できる。最近ハリウッドのパニック映画でもこのテのものってあまり見かけないので、久々に映像で鳥肌が立ちました…。
予告を裏切らず、むしろこれを超えてきます。
次から次へと起こる危機にハラハラドキドキ。最近では、なんの嫌がらせか3時間にも及ぶ作品も珍しくない中での、とっても良心的な96分笑
そして『ミスト』もそうですが、霧の設定って良いですよね。本作も濃霧で視界が悪い中、海上の橋で孤立してしまい、脱出不可能という設定がもうたまらない。民間人が巻き込まれるのもドラマ性が生まれて良いです。
しかし一体、何だってそんなことになるのかといったら、まずは霧のせいで起こる車の玉突き事故。何十台絡むの!?という、車のクラッシュに次ぐクラッシュ!このシーンですでに劇場に来て良かったと思いました笑。
その事故により、横転したタンクローリーからは有毒ガスが発生→電波障害によるケータイ電話の不通→救助に来たヘリも墜落→橋が崩落の危機!!…まさに、パニックマニア垂涎の状況が完成。
そして、本作のメインパニックの要素がもうひとつ…。
2、まさかの○○パニックだった

そしてこれが、もしかしたら賛否あるかも?しれません。予告では確かに『”それ”が来る』と言っていたし、ポスターにも書いてますね笑。ここをしっかり見ておらす、単なる?橋からの脱出パニックものなのだと思っていたら…。
本作、「イヌ」パニックなんですね…▼・ω・▼実は、これがかなりの割合を占めます。
この時点で、イラネ笑と思われる方もいるかもしれません。私も最初は正直思いましたw
物語冒頭で、軍事用に開発された犬のエピソードが出てくるので『…これはもしや…』。
もちろん橋の上には犬の輸送車が含まれており、一斉に放たれます。
と同時に、このネタで90分持つか(!?)とも。…ところが、しっかり持つのでご安心ください笑。
犬とはいえ、ガッチガチのピットブルみたいな狂犬が20頭ほどおり、みなさんやる気満々です。
そして、彼らに立ち向かうのはさすがに無理なので、ほぼ逃げることがメインとなります。
※ここからはネタバレありで語ります。
記事の最後にまとめてあります
3、異変を見せた”母体”の行動
しかも犬には犬の事情が…。
彼らはただのモンスターではなく、軍事用に開発され、番号で管理されていた“兵器”。
それぞれに番号が振られているのですが、すべてが”9番”のクローンだったのです。「9番は目の前で子犬たちを殺されたことから人間に復讐しているのだ」と博士。
クローンとして複数体が同時に動いており、指示に従って攻撃するよう設計された存在——そう聞くだけで冷酷で機械的な印象を持ちます。
しかしラスト、”母体”とも言える9番の行動が、そのイメージを覆します。
娘が父親を必死に助けようとする姿を見た9番は、まるでそれに感化されたかのように、瓦礫の下にいた“仲間の犬”を助けようとするのです。
軍用兵器として生まれ、命令でしか動かないはずの存在が、人間の姿に影響を受けたかのような行動—。
この描写には、「命は管理できても、感情までは支配できない」というメッセージを感じました。
パニック映画としての側面だけでなく、こうした“命とは何か”を問いかけるような瞬間があることで、物語に深みが増していたように思います。
本作に関しては、メインキャラ”レッカー”が連れている犬のジョディも無事なので、私は犬注意報は出さなくても大丈夫かと思ったのですが?ネットを見ると、犬好きはキツいという意見もちらほら。人によっては注意が必要かもしれません。
4、「サイレンスプロジェクト」とは
実は主人公ジョンウォンは、国家安保室の行政官。次期大統領候補とも言われている室長の下で働いており、彼とは友好的な関係を築いていました。
…が、なんと軍事用の犬は、室長が秘密裏に承認し開発されたものだった!これがタイトルにもなっている『サイレンスプロジェクト』なのです。
犬のことがバレれば、大統領への道はないー。
ここからは、橋での生存者を犬もろとも隠蔽したい室長 vs 何がなんでも生き残ってやる行政官との静なるバトルも勃発し、物理的なパニックと精神的パニックの両方も味わえるという。
なので本作は、単なるパニック映画というより、“国家の都合で人命が軽視される構図”を描いた社会派スリラーとしても読み取れます。
「サイレンスプロジェクト」という極秘軍事計画の存在が、政府内でも一部の人間にしか知られていないこと、そして最終的に“橋ごと爆破”という強硬手段で事態を封じようとするくだりなど。
あくまで“体面”や“責任逃れ”が最優先で、命よりも「情報の管理」や「立場を守ること」が大事にされるという構図がかなり衝撃的でした。
しかも、現場で奮闘していた登場人物たちには一切説明もないまま…。
こうした「管理された情報の裏で、命が使い捨てられる」という構造は、どこか東アジア的なリアルさを感じさせました。
そして、室長役を演じたキム・テウという俳優さん、私のなかでは悪役のイメージだったので今回は良い役なんだ?と思っていたら…やはり期待を裏切りませんでした笑
5、8人の物語、それぞれの選択

あらすじでは116名が橋の上で孤立となっていますが、主にスポットが当たるのは8名ほど。この8名が多彩なキャラクターばかりなので、飽きることなく見せてくれます。
- 主人公である行政官のジョンウォンと、留学へ旅立つ予定の娘ギョンミン。
- ジョンウォンが立ち寄ったガソリンスタンドのアルバイト男(レッカー)。
- ゴルファーの妹と、付き添いの姉。
- 認知症の妻とその夫。
- 軍事用の犬を開発した博士。
ジョンウォンは、娘第一主義で他人は二の次(まぁそれが普通でしょうが)なキャラクターであったのに、娘に咎められ感化されたのか、後半ではおじいさんを助けようと人間味のあるキャラクターに。
ジョンウォンとレッカー(ガソリンスタンドのアルバイト男)との掛け合いも良かった!実は橋の手前のガソリンスタンドで、現金で払ってくれとしつこい彼に不信感を抱き、後日払うと代金を払わずにその場を後にしてしまうジョンウォン。
アルバイト男は、ジョンウォンを追って”レッカー”で取り立てにやって来て、橋で事故に巻き込まれることとなる。しかしもちろん、最終的には良い関係を築くまでに(割愛)。
おじいさんが(亡くなった認知症の妻と)ここに残ると、最後の力を振り絞って車のドアを閉めたあたりから泣けてきて…(;ω;)
レッカー車やゴルファーであることを活かしたある作戦もとても良いです。
ジョンウォンの娘は元から良い子なので、書くことなし笑。ラストでは命懸けで娘が父を助け出し、そこから”レッカー”が引っ張りあげ、橋を駆け抜ける疾走感!からのー、室長をぶん殴る爽快感。
パニックものとしては王道ながらも、ド迫力の映像と安定した人間ドラマもしっかり見せてくれ、私としては大満足。こういうのを見せられると、やっぱ韓国すごいよなぁと。いつの間にこんな映画が作れるようになったんでしょ…。
あ、ただ犬のCGには重量を感じられず、ちょっとアレなところもありましたが(小声)。
パニックものが好きな方であれば、決して見て損はない作品かと思います。
5、多彩なキャストたち
イ・ソンギュン(ジョンウォン)
やはり主人公を演じたイ・ソンギュン。正直、彼が主役だったので楽しみにしていたのもありました…。
主人公を演じた、故イ・ソンギュン

『パラサイト 半地下の家族』で裕福な一家の主人を演じたイ・ソンギュン。作品がオスカーを受賞したことで彼も注目される1人となったわけですが、2023年に薬物疑惑が…。
23年10月に麻薬不法投薬の疑いで取り調べを受け、同年12月27日、車内で遺体となって発見された。享年48歳。(映画.comより)
一部容疑を認めていたりもしていたようですが?仕事の降板などが続き、疑惑から2ヶ月後には自ら命を絶ってしまいました…。
低く渋い声には落ち着きと知的さがあり、私も好きな俳優さんでした。知名度が上がったことにより出演作もこれからもっと広がるところだったでしょうに、残念でなりません。
本作が遺作となるようですが、本当〜に良い俳優だったので、改めてもったいない…(;ω;)
イケボ俳優としても有名ですが、やっぱり声が良いと何を言っても説得力がある!これはズルいです笑。
ラストで、振り返って娘に見せた笑顔には、ストーリー以上に感極まって泣けてしまい…。エンディングでは『イ・ソンギュンさんに捧ぐ』というテロップが出ました。
本作、吹き替え版も上映されていたのですが、ちょうど良い時間がなぜか吹き替えばかり!でも、イ・ソンギュン本人の声を聞かなければ意味がない!と、少し早起きして字幕版を見に行った甲斐がありました。
チュ・ジフン(レッカー)

正直、演じたチュ・ジフンを知っていなければそこまでハマらないかもしれませんが、イケメン役のイメージしかない彼の、まさに新境地。
オタク風ロン毛で、バッグにジョディ(ヨークシャーテリア?)を連れ歩くコミカルキャラ。イケメン役より、こっちのが全然良いw
場内でも結構笑いが起きてました。イ・ソンギュンファンと、もしかしたら彼のファンもいたかな?
キム・スアン(ギョンミン)

もしかしてこの子…?と思ったら『新感染』ではコン・ユの娘を演じた子役が成長し、今度はイ・ソンギュンの娘に!
あれからおよそ10年経っているにも関わらず、顔はまったく変わっていませんでした。で、ラッパー留学ってなに笑?
しかし、イ・ソンギュンのことはかなりショックだったのではないでしょうか…。
キム・ヒウォン(ヤン博士)

軍の命令により、やむを得ず軍事用の狂犬を作り出すこととなった博士役には『アジョシ』の悪役でもお馴染みキム・ヒウォン。
生存者を車に入れようとすると自身にも危険が及ぶことから、ドアを開けたくない博士 vs ドアが開かなきゃ死ぬ勢という『新感染』なエピソードも。
こちらもイ・ソンギュン主演!どんでん返し睡眠スリラー『スリープ』
子役が亡くなったことでも注目されることとなった『アジョシ』