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映画【怪物】あえてすべてを描かない余白の妙とミスリードで魅せる【ネタバレ考察】

カンヌで2つの賞を受賞した是枝監督 × 坂元裕二タッグのヒューマンミステリー。いわゆるエンタメではなく、行間を読ませ余韻を大切にする、上質で玄人向けな作り。すべてを描き切らないからこそ、自身で考察し、何度も見たいと思わせる。これをもどかしいと取るか、余白と取るかで、作品の評価は大きく変わってきそうです。

作品データ

【製作年度】2023年
【製作国】日本
【上映時間】126分
【監督】是枝裕和
【キャスト】安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢 ほか
【鑑賞方法】Amazonプライム、U-NEXT など
(鑑賞時にご確認ださい)

あらすじ

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。(映画.comより)

年齢制限は?

年齢制限はないのでどなたもご覧になれます。グロいシーンなどもありません。

レビュー ( 2023・06・07 )

1、行間を読ませる玄人向けなテイスト

(C)2023「怪物」製作委員会

カンヌで賞を受賞した是枝監督 × 坂元裕二のタッグということでとても楽しみにしていた本作。

坂本裕二といえば古くは『東京ラブストーリー』から、最近ならば『花束みたいな恋をした』など、わりと恋愛作品のイメージが多い脚本家。しかしどんなジャンルを書かせても面白い、彼のミステリーということで期待値も高く。

本作はあえて予告をあまり見ず、情報も入れずに劇場に行ったのですが…なるほど、こういう作品だったのですね。これは確かに、カンヌで受けるのも納得なテイスト。

いわゆるエンタメではなく、行間を読ませ余韻を大切にする、上質で玄人向けな作り

また、ここぞという肝心なシーンで場面は切り替えられることも多い。その後、別のエピソードで『続き』が見られる場合と、そうでない場合も…。

これを、もどかしいと取るか、余白と取るか-。ハッキリと答えが明示されないエンディングは、見る者に解釈が委ねられています。

しかし、すべてを描き切らないからこそ、自身で考察し、何度も見たいと思わせる。

私は、好みで言えばもう少しエピソードが欲しい気もしました。そして作品の構成上、時系列が行ったり来たりするので、物語をさらに分かりづらくしている部分もあります。

それでもとても重厚で、ひとつの作品として十分な満足感を得ることが出来る作品です。

マイナーだけれど好きだったドラマ

坂本裕二脚本でかなり好きだった『あなたの隣に誰かいる』。夏川結衣、ユースケサンタマリア、北村一輝共演の、当時からしてもかなり珍しかったオカルトホラー。

2、1つの出来事を3方向から見せる

(C)2023「怪物」製作委員会

本作は3部構成になっており、

  • シングルマザー沙織が息子・湊の学校生活で苦悩する第1部。
  • 同じ出来事を、湊の担任教師の視点で描かれる第2部。
  • さらに、湊とクラスメイトの依里よりの視点で描かれる『真相』の第3部。

物事を一方向から見るのではなく、別の角度、別の人物から見ると、事実がひっくり返る。

被害者が加害者に…またその逆も然り。物事の一面しか知らないと、人はこんな風に噂に踊らされ、事実はいとも簡単に捻じ曲げられてしまう。(ミスリードさせるための過剰な演出もありましたが…)

似たような構成の話は見たことはありますが、本作の凄いところは、冒頭から全く途切れることの無い緊張感。日常的なシーンですら目が離せない演出。繊細で、計算された画面構成に込められているシーンは、見逃しが許されないほど。

おそらく一度見ただけでは分からない伏線もたくさんありそうで、現に私もよく分からないところが。

いくつかの疑問
  • クラスメイトの少女の嘘はなんのため?
  • 依里はなぜ着衣のまま浴槽に浸かっていた?
  • 依里の父親は、息子と湊の関係に気づいていた?
  • ラスト、湊と依里はどうなった…?

CMで幾度か目にした『怪物、だーれだ』は妙に怖くも感じたのですが、正直CMのイメージほど『誰が怪物なのか』ということに焦点を当てているとは感じませんでした。

もっとおどろおどろしい、人間の汚い部分を怪物と表しているのかと思えば、湊と依里がしていたゲームのことだったんですね。ここはちょっと作品のイメージとは違いました。

3、誰かにとっては『怪物』でも…

(C)2023「怪物」製作委員会

校長の、湊の母親に対する言動があまりにも極端で、この演出だけはさすがになんとかならなかったんだろうかと…苦笑。

こう見ると校長は、怪物な一面も無きにしも非ずですが、湊からしたら唯一本音を話せた人物でもあるわけで…。

誰かにとって『怪物』でも、誰かにとっては『救い』になったりもするそう考えると人間は、全員から理解され、好かれることは不可能なのかもしれない。

たった1人、自身が愛する人から信用され、また信用することが出来たらそれで幸せなのかもしれません…。

ラスト、湊と依里がたとえ死んでしまっていたとしても…心を通じ合わせた2人は、おそらく幸せだった。周囲から理解されなくとも…。

謎多きキャラクターだった校長

田中裕子の圧倒的生々しいキャラクター
(C)2023「怪物」製作委員会

依里がチャッカマンを所持していたのに、校長はまたしてもスルー…。

基本、子供は好きなんでしょうが、深くは介入しないスタイル。ある意味『子供も1人の人間として捉えている』ようにも。

スーパーで子供の足を引っ掛けたのはかなり生々しくもあり、妙な人間味が感じられました。

4、クイアの要素は言われなければ…

(C)2023「怪物」製作委員会
物議を呼んでいたカンヌでのネタバレ

カンヌで受賞したのが『クイア・パルム賞』と『脚本賞』だったのですが、日本での公開前にクイアの要素があると分かってしまい、ネタバレ云々みたいな騒ぎもありました。

核心部分のネタバレは避けたい。しかしその方策への注意を深く考えさせられた『怪物』(YAHOOニュースより)

正直クイアに関しては詳しくないのであまり言及はしませんが。何も情報を入れずに見た私からすると、言われなければそこまで注視するほどのものでもなく…。

確かに匂わせる描写はありますが、本人に確信的な自覚もなさそうです。まだまだ発育途中の子供たちなので、あくまで友情が初恋めいたものになった?くらいのニュアンスにしか感じませんでした…と、完全に私の主観ですが。

そして、安藤サクラと瑛太は言わずもがなですが、湊と依里の子役の演技がとても良かったです。

依里役の子の可愛いこと…。もう女の子と見まごうくらいの愛らしさで、中身も天使なの?と思いきや、どうやらビルの放火はこの子が関与しているかもしれない疑惑…ここも真相は明かされません…。

こちらも結末がハッキリしない良作ミステリー



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