まさかのイーストウッド最新作が配信スルー、ということでとても驚いた本作。丁寧な人物描写と正統派なシリアスドラマはイーストウッドらしく、万人受けする良作。…ただ、2時間という上映時間のうち1時間55分は主人公が悩み、5分で覆される構成はもう少しなんとかならんかったかな(?)と笑。その分ラストの余韻はすごいですが、話の展開としてはわりと同じことが繰り返されるので、テンポは若干悪く感じるかもしれません…。
作品データ
【製作年度】2024年
【製作国】アメリカ
【上映時間】114分
【監督】クリント・イーストウッド
【キャスト】ニコラス・ホルト、トニ・コレット、J・K・シモンズ ほか
【鑑賞方法】U-NEXT
(鑑賞時にご確認ください)
あらすじ
ある殺人事件に関する裁判で陪審員をすることになった主人公が、思いがけないかたちで事件とのかかわりが明らかになり、煩悶する姿を描いた法廷ミステリー。(映画.comより)
年齢制限は?
年齢制限はないのでどなたもご覧になれます。
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1、イーストウッドという監督
少し前に、イーストウッドの最新作がなんと配信スルーという情報を知り驚いたのですが、年末には早速U-NEXTに。こんなに早く見られるとは思わず嬉しかったことも事実ですが、監督の作品が日本未公開になるのは、実に51年ぶりのことなんだそう。
ハリウッドを代表するベテラン監督であり、御歳94歳という年齢からも、本作が引退作になるかもしれないと言われているイーストウッド。
もちろん私も大好きな監督の1人で『許されざる者(92)』以降の有名作品は、24作品ほど見ています。ただ、前作『クライ・マッチョ』の評判がイーストウッドにしてはあまり芳しくなく?未だに見てないんですよね(いずれ見ようと先延ばしに…)
それでも本作に関しては、あちらこちらで『…なぜこんな良作が配信スルーに!?』という評判を耳にし、現在Filmarksでは4.1。かなり期待値を上げての鑑賞となりました。
正統派で丁寧なミステリードラマで、万人受けする題材。ただ、近年は実在の有名な事件を扱うことも多かった監督作と比べると、少し地味な印象も。登場人物もさほど多くなく、小さな田舎町で起きたとある事件。
日本では本作の劇場公開を求めて、ファンによる署名運動も。発起人は『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』などでも署名活動により公開へと導いた、映画・テレビ監督のわたなべりんたろう氏。
2、ミステリーではなく葛藤ドラマ
とあるカップルがバーで激しい喧嘩をし、彼女が怒りに身を任せ、豪雨のなか店を飛び出して行ってしまう。すると彼女は、後に橋の下で無惨な遺体となって発見される。
彼氏は『彼女を追うことはせず、自宅に帰宅した』と証言するが、果たして彼氏が殺害したのかー。
そして、本事件の陪審員に選ばれたジャスティン。実は彼は事件当時、まさに彼女が亡くなった橋の付近で『動物を轢いたのでは』と思われる出来事に遭遇。車を降りて確認するものの、姿は見えずそのままやり過ごしていた…。
しかし事件の概要を知るにつれ、自身が関与していたのでは?という疑惑が高まり、葛藤する。
…が、本作は『真実が何か』を追求するミステリーではなく、ジャスティンが関与していることはほぼ間違いない体で進行していきます。彼が、善悪の意識の狭間で翻弄されるドラマです。
無作為に選ばれた十数名が、有罪・無罪を討議する。全員の意見が一致しなければならない。
3、集団心理と確証バイアス
アル中だった過去と決別し、全うな生活をっていたジャスティン。ようやく授かった我が子がもうじき生まれてくるという、絶妙なタイミング。
そしてそんな彼を後押しするかのように、事件の被告人はタトゥー入りまくりの元ギャング。バーで彼女と言い争っていた目撃情報も多々ある。
極めつけは、事件当日に車から降りて橋の下を確認する人物を見たという男性の証言。しかし男性は『その人物は、”女性の彼氏”だった』とー。
被告人の人物像から、もはや『コイツで間違いない』という確証バイアスがかかってしまう、なんともリアルで恐ろしいエピソード…。しかもそれは、集団になるとなかなか解けることはない。
現に、陪審員たちのほとんどは被告人を有罪だと決めつけてしまう。
テーマとしてはとても興味深く、唯一真実を知っている主人公がどのように立ち回るのか、見どころもたくさん作れそうな気がします。…ただ、このテーマがいまいち活かしきれていないような印象も。
4、話がなかなか進まない…
主人公を演じるニコラス・ホルトの繊細な演技は素晴らしく、これぞ優男でいかにも善人な風貌なので、この役には打って付け。
ようやく掴みかかっている幸せな生活を自身の手で壊すことなど到底考えられない。しかし、無罪である人間を有罪にすることも咎める…。
彼の葛藤のドラマとしては、見応えはあります。ただ、ほぼ2時間『煮え切らない主人公』という一辺倒な描き方がされており、話が進みそうで進まない…。
キャストが豪華なことが、逆に少し拍子抜けしてしまった要因でもありました。
と言うのも、陪審員のなかには実は元刑事だったJ・K・シモンズという隠し玉が用意されています。被告人は有罪では無いことを確信した彼は独自で捜査をし始め、ここでようやく物語が動くのか!と思った矢先、やはりジャスティンがコレを『隠蔽』。事なきを得ます。
なのでJ・K・シモンズはあえなく離脱。…え〜!有能っぽかったのに結局見抜けなかったんかい!笑
キーファー・サザーランドもなかなか意味ありげに登場し、彼には唯一事件のことを話すジャスティンですが、これまた『それは言わないほうが良い…』とアドバイスされ、アッサリと受け入れる。
結局ストーリー展開としては、
- 主人公ピンチ!
- 間一髪、逃れる
- 被告の有罪強まる
- …それは忍びない
- 1番の主人公ピンチ!へ戻る
という、ほぼこのローテーションに落ち着いてしまうのが残念…。自分が捕まることは出来ないのに、被告人だけは率先して庇おうとする…。
5、イーストウッドだからこそ…!
…よーうやく!話が覆るのはラストシーン。もちろん自身では何もアクションを起こすことができなかったジャスティンに、ようやく『お仕置』が始まるゴングが。そうして物語は、絶妙な余韻を残して幕を閉じます。
なるほど、イーストウッドこれがやりたかったんだな…は分かりましたが、2時間という上映時間のうち1時間55分は主人公が悩み、5分で覆される構成はもう少しなんとかならんかったか…と笑。
含みを持たせるエンディングは、傑作『ミスティック・リバー』にも通ずるところはありますが、グレーなまま終わった『ミスティック・リバー』に対し、本作では正義が勝ちそうです。あれから20年ほどの月日が経ち、イーストウッドにも何か変化があったのでしょうね。
ただ、イーストウッドだからこそ!もっと『出来た』気もするんですよね。せっかくの豪華キャストたちに、もう少し見せ場も欲しかった。
これが引退作になってしまうとしたら、個人的にはちょっと物足りない気もしてしまうのでした…。
主人公を演じたニコラス・ホルトとは?
ヒュー・グラントと共演した『アバウト・ア・ボーイ』で有名に。青い瞳が優しそうで誠実な印象を受けるニコラス・ホルトは、実は190㎝と高身長!
『X-MEN』シリーズで共演したジェニファー・ローレンスと交際していたのですが、破局してしまい残念…(;ω;)ちょっと気の強そうなジェニファーを優しくたしなめていそうなニコラス(想像)、お似合いだったのになぁ。とはいえ、今は2人ともそれぞれ家庭を持ち、幸せそうですね。
最新作は『スーパーマン』
そんなニコラス・ホルトの最新作は、2025年公開のジェームズ・ガン監督『スーパーマン』。ちなみにスーパーマンではなくレックスという役だそうですが、監督も監督ですし、これまたヒットしそうですね!
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