これまた『設定はめちゃくちゃいいのに!』案件。不条理劇ってブラックユーモアが1つの楽しみでもあるのですが、本作の場合はあまり笑えないんです…。だってこれ、ポールじゃなくて『ただのニコケイの話やん(・ω・)違』。彼自身の境遇が妙な邪魔をしてしまい、物語の中ではほぼやられっぱなしというのも、なんだかリアルで切なくて(やめろ)。
作品データ
【製作年度】2023年
【製作国】アメリカ
【上映時間】102分
【監督】クリストファー・ボルグリ
【キャスト】ニコラス・ケイジ、リリー・バード
【鑑賞方法】劇場公開中
(鑑賞時にご確認ください)
あらすじ
大学教授のポール・マシューズは、ごく普通の生活を送っていた。ある日、何百万人もの夢の中にポールが一斉に現れたことから、彼は一躍有名人となる。メディアからも注目を集め、夢だった本の出版まで持ちかけられて有頂天のポールだったが、ある日を境に夢の中のポールがさまざまな悪事を働くようになり、現実世界のポールまで大炎上してしまう。(映画.comより)
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたもご覧になれます。
レビュー ( 2024・11・26 )
1、元ネタはある都市伝説
『人々の夢の中に出てくる男』と聞くと少し前に邦画で『THIS MAN』という作品があり、そちらも気になっていたのですが。
どうやら『THIS MAN』も『ドリーム・シナリオ』も、2009年ごろに流行ったある都市伝説が基になっているんだとか。
This Man(ディス マン)とは、2009年ごろから起こったインターネット・ミームの一つで、2千人を超える世界中の人々の夢の中に繰り返し現れるものの、現実では決して姿を現さないとされる謎の人物を指す。しかし、実際はイタリア人のマーケティングの専門家アンドレア・ナテッラ (Andrea Natella) の創作によるもの(wikipediaより)
実際には創作だったことが判明していますが、こんな面白い題材に目をつけたのが、今や映画好きなら知らない人はいない『A24』という映画製作・配給会社。
ヒューマンドラマからホラーまで幅広いジャンルの作品を手掛けていますが、どちらかというと一般受けし難い、クセありな作品が多い印象。
A24の看板監督でもあるアリ・アスターを筆頭に、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』や『関心領域』など、オスカーに絡んだ作品も多々あります。
私が最近レビューした『ボーはおそれている』や本作『ドリーム・シナリオ』にも共通しているのが不条理劇で、A24が十八番とするところ。
アリ・アスター監督は『ドリーム・シナリオ』に製作として参加。
私としては『なぜ何も悪いことをしていないのにこんなに酷い目に遭わなきゃいけないの?』をブラックユーモアとして見るのが不条理劇の楽しさでもあるのですが、『ドリーム・シナリオ』に関しては、これがあまり笑えなかったんですよね…。
2、なぜ笑えなかったのか…
突然人々の夢の中に現れるようになった、大学教授ポール。それは何百万人にも広がり、メディアにも出演。一躍時の人となる。
しかし、彼が夢の中で人々に悪事を働くようになると、その評価は一変。ポールの顔を見るだけでトラウマになってしまった人々からは、恐れられ、忌み嫌われる。
飲食店では追い出され、娘の学芸会も鑑賞出来ず。友人を失い、職を失い、挙句の果てには家族の心も離れていく…。
…いやこれ『ただのニコケイやん(;ω;)?(違)』
すみません。勝手(すぎる)イメージです。
しかし彼の俳優キャリアという点で見ると、売れに売れていた絶頂期から、借金によりB級C級あるいはZ級の作品にまで出演するようになった、近年のニコラス・ケイジとなんだか重なってしまい…涙。
最近では、ニコケイがニコケイ役で、むしろ現状をネタにする『マッシブ・タレント』という作品もありました(未見ですが、評判いいですよね)。
さらに、彼自身が物語のなかではほぼやられっぱなしというのも、なんだかリアルで切なくて(やめろ)。
3、このネタならもっと出来たハズ
有名になったポールは、ある広告会社から良いように使われそうになります。そこで知り合った女性とイチャコラが始まりそうになるのですが、このあたりから若干の中だるみが始まり、ストーリーにあまり進展がありません…。
『夢の中で悪者』となってから、彼がこの状況を打破しようと試みたことといえば、謝罪動画の配信。しかも、それは失敗に終わります。そもそも、夢の中の出来事だというのになぜ彼が謝罪しなければならないんだって感じなんですが笑。
そしてこれはまさに、前半で彼の夢を見た者たちが言っていた『あなた(ポール)は何もしなかった』に起因しているのかと。
人々が最初に見たポールが出てくる夢は、助けを必要としているシーンが多いのです。にも関わらずポールは、ボーっと見ているだけの『傍観者』の形をとっています。
- ポールの娘がどんどん宙に浮き上がっているのに、見ているだけ。
- 交通事故に遭った人を、見ているだけ。
- 赤い大男に追われているポールの生徒を、見ているだけ(このエピソードめっちゃ怖いです)。
ポールは『なぜ自分は夢の中で何もしないんだ?』とは言っているものの、自分が『そういう人間』だということに気づいていません。
そしてこれらの事実が、そのまま物語の評価に直結しているようにも…。
4、ポールがほぼ何もしないせいで…
現在本作は、Filmarksで3.6という評価になっています。この、悪くはないが良くもない理由の1つに、結局『夢の謎は解明せず、ポールのイメージも回復しない』モヤっと感にあるのかと。
私は不条理劇やバッドエンドも好きなので、それならこれでいいじゃないかとも思えるかもしれません。しかし先ほども言ったように、ポールが『ほぼ何もしない』せいで物語にもあまり動きがないのです。
ポールが夢に出てくる→ポールが悪者になる→結局これだけの話で終わってしまっているんですよね。
夢に出てくるメカニズムを解明しろとは言いませんが、ポールは大学教授という設定なのですし、せめてこれらの現象に疑問を持って調べようとするエピソードがあっても良かった気はします。
そこまで盛り上がるエピソードもない中、これら一連の出来事を『人々の夢に何故彼が出てきたのか、何故出てこなくなったのかは分からない』。このひとことで片付けられてしまっては、ええとなってしまいます…。
5、奥さんがポールの夢を見ない理由
ポールが窮地に立たされても、ギリギリまでポールの味方でいてくれた奥さん。
『事件後』も奥さんはまだポールのことを愛しているようなので、ここはあくまで『世間的に』という事情での別居なのでしょうね。なんと言っても人々が見たポールの悪夢の影響は、奥さんの職場にまで及んでしまったのです。
とは言え、本作で最も最悪な悪夢を見ることとなったのはポール自身なのですが…。
ひとつ気になったのは、奥さんはポールの夢を見なかったこと。これは、ポールを愛していたからなのでしょう。奥さんの中でポールに『傍観者』というイメージはなかった。
ポールの夢のおかけで『ノリオ』という夢旅行ビジネスが生まれるのですが、ポール自身もそれを利用。一人暮らしの、冷たい床の上で…。
奥さんの夢の中に入ると、その中で自分は初めて、見ているだけではなく人を助けます。
『ヒーローみたいでカッコよかった』と奥さんが言ってくれたスーツ姿で、彼女のことを…。
本作の最もキモ怖いシーンがこちらで見られます
人々が見る『ポールが何もしない夢』のショートムービーの数々が、キモこわで最高なんですが。
私が最もお気に入りなのが、正装でキノコを食べながら森でさまよっていると、赤い大男に追われるという話。『MEN 同じ顔の男たち』みたいな雰囲気で、激好み。これだけで映画1本撮ってほしいw
…と、色々ネットを見ていたら、なんとこのシーンのみが公開されているではないですか!(※違法ではありません笑)1分ほどのシーンなので、興味がある方はぜひ見てみて欲しいです。
ニコラス・ケイジはキノコに夢中!? 『ドリーム・シナリオ』本編映像〈みんなが見た悪夢編〉公開 動画(1/1)(『ぴあ映画』より)
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