
『…あの女性って元カノじゃなかったの!?』─映画『夜明けのすべて』には、原作には登場しない“今カノ”設定が潜んでいました。センシティブな題材を扱いながらも、想像以上にサラッと見やすく、最後まで心地よい余韻が残る1本。やさしさと静けさに包まれたこの映画を、原作との違いにも注目しながら深掘りしていきます。
作品データ
【製作年度】2024年
【製作国】日本
【上映時間】119分
【監督】三宅唱
【キャスト】松村北斗
上白石萌音 ほか
あらすじ
PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。(映画.comより)
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レビュー ( 2024・08・19 )
1、PMSとは?誤解される苦しみ

((C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会)
本作では、月経前に起こる心と体の不調『PMS(月経前症候群)』という症状が大きなテーマになっています。
私自身これまでPMSという言葉を聞いたことがなく、同じ女性であっても馴染みのない人はまだ多いかもしれません。
物語の序盤では、主人公の藤沢(上白石萌音)がたびたび怒りを爆発させるのですが、視聴者としては「ただのイライラした人?」と感じてしまいそうなほど、その境目はとても曖昧。
ですが、これこそが本作の巧みなところ。
一見すると“わがまま”にも見えてしまう不調が、実は病気であるという現実。
誤解を招きやすいPMSという題材を、丁寧に、そして日常の空気感の中で描いている点が非常に印象的でした。
藤沢と同じ職場で働く山添(松村北斗)がパニック障害を抱えていることが明らかになると、ふたりの関係に静かな変化が生まれていきます。
ここから一気に“優しさの連鎖”が始まり、物語がじんわりと動き出していく─そんな展開もとても良かったです。
2、恋愛にならない関係性

((C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会)
山添が外出困難な事情から、藤沢が彼の自宅で髪を切ってあげるシーン。本作の中でも印象的な場面のひとつです。
異性の髪を切るという行為には、どうしても親密さが伴うものですが、このふたりの関係には“そういう空気”が一切ありません。
恋愛を匂わせるような視線や台詞もなく、あくまで相手を思いやるための行動として描かれているのが、とても心地良いのです。
検索ワードに『つまらない』『キスシーン』などが出てくるのは、おそらく恋愛的な展開を期待していた人の声。もし私が10代・20代の頃なら、やはりそういった関係性を求めていたかもしれません。
けれど本作では、あえて恋愛にしなかったからこそ得られた感動があります。
お互いにメンタル的な不調を抱える者同士が、“できることだけをやる”という優しさで繋がる─その姿がとてもリアルで、だからこそ多くの人に刺さったのではないでしょうか。
そうは言っても、現実ではそれがなかなか出来なかったりもするんですけどね…。
藤沢の気遣いに触れたことで、当初はどこか尖っていた山添にも変化が現れ始めます。差し入れを職場に持ってくる場面などは、彼女の存在が周囲への優しさにも波及していった証拠。
“人に優しくされると、自分も優しくなれる”という、まさに人間の真理を描いた描写でした。
3、登場人物が良すぎ問題

((C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会)
本作を見ていて一番印象的だったのは、登場人物の“良さ”が過剰なくらいに描かれていることです。
藤沢と山添の職場の人たちは、ふたりの事情に深く踏み込むことはなく、かといって無関心でもない、理想的な“ちょうどいい距離感”で見守ってくれます。
職場というより、家族に近い温かさ─。
本作にはそんな人間関係が丁寧に描かれており、『こんな職場があったらいいのに』と思わずにいられません。むしろ、スピンオフで職場の日常を描いたドラマがあっても成立しそう。
また、「山添のかつての職場の女性」が彼を何度か訪ねてくるのですが、これがまた完全に“良い人”。
最初は、藤沢に対して何らかの対抗心を見せるのかと構えていたのですが、『職場にあなたのような人がいて良かった』と告げるだけで終わります。
こういった悪人が一切出てこない作りは、一部では“現実味がない”と指摘されるかもしれませんが、逆に言えば、誰かの苦しさを“否定しない”人たちだけで構成された優しい世界とも言えます。
山添は本当に、周囲の人に恵まれていましたね。
4、あの女性、今カノだったの…??
先ほどの章で登場した「山添のかつての職場の女性」なのですが─。実は彼女、ただの“良い人”どころか、もっと意外な関係性が隠されていました…。
てっきり私は、以前の職場の世話焼き同僚か、せめて?元カノかと思っていたのですが。
実はこの女性、映画版の設定では『現在の恋人』とのこと。え?どこ情報?ってなりますよね?私もなりました。
でも、よ〜く思い出してみると、以下の描写がそれを示していたっぽいんです…。
①:病院の診察に付き添っていた
ただの同僚が病院に付き添う?いやいや、距離感がおかしい…。
あのシーン、よく考えたら“彼女ポジション”だったんです。
②:何度も自宅訪問
山添の家に何度も訪ねてきてる時点で、普通の関係じゃないですよね。しかも山添も、何の抵抗もなく応じている様子。
この自然さ、恋人か家族レベルじゃないと出せない…!
③:ロンドン転勤の報告に来る
終盤で彼女がロンドンへの転勤を伝えに来るシーン。ここでの雰囲気はまさに「別れ話」っぽいニュアンスで、山添もかなり複雑な表情。
この別れの空気感、今付き合ってたからこそ…としか思えない。
④:藤沢と鉢合わせても恋の火花ゼロ
そして極めつけ。藤沢とばったり出くわす場面でも、嫉妬や敵対心ゼロ。むしろ『あなたがいてくれて良かったです』と感謝までしてくる、ただのいい人。
それは恋人の余裕…なのか?それともただの菩薩??(混乱)
ここは本来なら、恋人ムーブかましてくるところだろ(・ω・)
というわけで─
どうやら彼女、今カノだったらしいです。
いやでもこれって、確信とまではいかない結構ギリギリの!ラインでもあると思うんですけどね…。しかも、山添の態度が態度なものだから(状況的に仕方ないですが)よけいに分かりづらい…。
映画版しか観てなかったら、『元カノ?同僚?』となる人もいそうですが…私だけ?笑
未読ですが、原作では山添の恋人はすでに別れており、登場することもないとか。映画版のように自宅を訪ねてくるようなシーンもなく、“今カノ”として登場するのは映画オリジナルの設定だそう。
5、約束も恋もいらない結末

((C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会)
そして、転職をきっかけに実家の近くへ引っ越すことになった藤沢と、一方で「あんなに辞めたがっていた職場」に残ることを選んだ山添─。
本作のラストは、このふたりが「また会おう」と約束するわけでも、「未来を共にしよう」と誓うわけでもない。
2度と会うことはないかもしれない2人ですがー。
それでもどこか満ち足りていて、観る側に再会や恋愛といった“期待”を持たせない潔さが、とても清々しく感じました。
何か大きな事件が起こるわけでもなく、淡々と過ぎていく日々を描いた119分。気づけば、その時間があっという間だったことに驚かされます。
映画って、こういうのでいいんだよなぁ…
特別なことが起きなくても、観終わったあとにふと何かが残っている。本作はそんな“静かな余韻”を大切にした作品です。
マイノリティに属する人が生きづらさを抱えながらも、人と支え合って暮らしていく─
そんな現代らしいテーマを、優しいまなざしで描いてくれた心地よい1本でした。
松村北斗の上手さに驚いた…

今回、山添を演じた松村北斗の演技力には驚きました。イケメンを上手い具合に隠し?『ちょっとズレた人』というのを、あまりにも自然に演じていました…。
『すずめの戸締まり』での声優の上手さにも驚いたのですが、また新たな才能を発揮しましたね。
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