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ジャケットからミュージシャンの伝記だと思っていたのですが、監督はなんと名脇役俳優でもあるウィリアム・H・メイシーだと知り驚きました!しかしどう見ても正統派感動作な雰囲気なのに、まさかのどんでん返し系とのことでこのたび鑑賞してみたら…これにはやられました。まさかこういうコトだったとは…(;ω;)
作品データ
【製作年度】2014年
【製作国】アメリカ
【上映時間】105分
【監督】ウィリアム・H・メイシー
【キャスト】ビリー・クラダップ、アントン・イェルチン ほか
【鑑賞方法】Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Hulu など
(鑑賞時にご確認ください)
あらすじ
大学で起きた銃乱射事件で息子ジョシュを失ったショックから、自暴自棄となり隠遁生活を送るサム。2年後、そんな彼のもとに別れた妻が現れ、生前にジョシュが書きためていた自作曲のデモCDを手渡される。自らギターを弾き、ジョシュの遺した曲を歌い始めるサム。ある時彼は場末のライブバーで飛び入りで弾き語りを披露すると、それを聴いていた青年クエンティンに熱心に口説かれ、2人でバンド“ラダーレス”を結成することに(allcinemaより)
対象年齢は?
年齢制限はないのでどなたでも鑑賞できます。ただ、実際にもよく耳にする学校での銃乱射事件がモチーフとなっているので、このテの題材が苦手な方は注意が必要かもしれません…。
レビュー ( 2024・09・09 )
1、前半はオーソドックスな良作ドラマ
銃乱射事件により息子を亡くしたサム。妻とは以前から離婚していたが、唯一の生きがいであった仕事までをも失い、1人、港町のボートで荒んだ生活を送っていた。
そんな時に息子と同じくらいの歳の青年クエンティン(アントン・イェルチン)と出会い、音楽によって親交を深めていく。息子が生前作った歌を、自身が作ったことにして…。
ここまではいわゆる普通に良いお話で、このままいっても良作にはなりそうな流れです。
本作の翌年に、27歳という若さで亡くなったアントン・イェルチン
♦︎ 「スター・トレック」俳優の事故死めぐる訴訟、自動車会社と和解(Reutersより)
大作からインディーズまで幅広く活躍していただけにとても残念ですね。『オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主』は、ちょっと変わったオカルトファンタジーでオススメです。
2、視点が180度変わる、後半の真実
どう考えても感動にしか結びつかなそうなこの流れで、一体何が起きるのだろうと見ていたら…これは確かに、どんでん返しでした…。
息子は加害者だったとは…。
あくまで主人公は被害者側なのだと思い込んで見ていた、こちらの先入観を逆手に取った構成は見事。息子の墓石に落書きがされているのが分かった瞬間、一気に鳥肌が立ちました。
だから息子のお葬式でも、両親や参列者がそこまで嘆き悲しむ様子がなかった…というより、泣けなかった。
確かに自身が第三者ならば、被害者の遺族にかける言葉も見つからないですが、それ以上に加害者側にかける言葉は見つからないかもしれません…。
マスコミがあそこまでサムに付き纏っていたのも、『加害者の父だから』だったのですね。
真実が分かると、それまでの周囲の行動などが伏線にもなっていて、もう1度見返したくなります。
3、真実を知っても、同情しますか?
被害者の親が辛いのはもちろんのことですが、ある意味では『それ以上』なのかもしれない悲劇。
『愛する子供を亡くした』という事実は、被害者側も加害者側も同じであっても、加害者側はただ哀しむだけでは済まされない。
誰からも悼まれることなく、死んでもなお恨まれ続ける息子とその家族…。
息子の墓石は落書きだらけ、息子の交際相手には『人生がめちゃくちゃになった』と罵られる。
被害者よりも、加害者の親のほうが辛いのかもしれない…そう思わせてしまう構成には賛否あるかもしれません。
ただ、冒頭から加害者だと分かる見せ方をしたら感じ方は全く変わってしまうし、あくまで『子供を亡くした父親』というフラットな見せ方をしたからこそ、本作の意義があるように思います。
そしてだからこそ、真実を知っても、あなたは彼に同情しますか?と、こちらが試されているようでも。
墓石の落書きを元夫婦が消すシーンでは、BGMにむしろほっこりした音楽が使われていたのが印象的でした…。気丈に、そして自然と振る舞う2人の姿に泣けて…。
4、加害者家族は幸せになってはいけないのか
事件後学校を訪れ、慰霊碑を見たサムは初めて泣き崩れます。もちろん息子の名前は刻まれていません。
息子を亡くした哀しさだけでなく、自分もここへ来て被害者家族と同じように哀しむことが赦されるのかーという慟哭にも思えました。
確かに加害者だけれど、サムは息子を愛していました。
冒頭シーンでは、ランチの約束をするどこにでもいる父と息子の会話。普通に暮らしていた家族。うつ病だったらしい息子ですが、それ以上の詳細は出てこず、事件を起こした動機も分かりません。
本作は息子がなぜこうなったのかを見る話ではなく、加害者の親が、その後どう生きたのかを見る話。
息子のエピソードを増やしても加害者側に感情移入しかねないですし、それを避けることによって中立に描こうとしたのだと思います。
かと言って加害者の親の生き方を変に美化させることもせず、その後彼らが報われたのかどうかも分かりません。
それでも、タイトルの『君が生きた証』はジョシュが遺した歌であり、サムは一時でもクエンティンとの出会いに救われた。サムの元妻に関しては、再婚相手との間に新しい命までをも授かりました。
…遺された者たちが幸せになってはいけない、と言える権利も誰にもない、本作は一方でそう言っているようにも思えます。
ラストでサムが自分の身の上を明かした上で息子の歌を歌うシーンは、哀しいとか切ないだとかそんな単純なことではなく、とにかく胸がいっぱいになってしまい、泣けて仕方がなかったです。
…あまりに、やるせなさすぎて…。
自分が被害者側の立場だったらと考えたら見方は変わってしまいそうだし、極めて難しい問題かもしれません…。
加害者の家族を責めていいのは、被害者の家族だけなのかもしれませんね…。
5、多彩で豪華なキャストたち
監督がまさかのウィリアム・H・メイシーというのに驚きました。名脇役としても有名ですが、この人監督もやっていたのですね!?調べてみると脚本家や舞台監督もされているそうで、なんとも多才な人です。本作ではバーのマスター役を演じ、いい味出してました。
サムの元妻役は、ウィリアム・H・メイシーの奥さんであるフェリシティ・ハフマンです。『デスパレートな妻たち』が有名ですね。
サムを演じたビリー・クラダップという俳優さんは実は今回初めて認識したのですが、調べてみたら彼の作品結構観てて驚きました。わりと脇役が多い俳優さんなんでしょうか。冒頭のエリート役もハマってましたが、荒んでからのカジュアルだけれど抑えた雰囲気と切ない感じもとても良かったです。
まさかのモーフィアスこと、ローレンス・フィッシュバーンのギターショップの店長も締まって良かったです!やっぱりこういう役は、彼のようなドッシリしたタイプの俳優さんに演じて欲しいです。
ちょい役ですが、重要な役どころを演じたセレーナ・ゴメスも、スターなのに等身大の可愛さもあって好きなんですよね。
あまり知りたくないかもしれないニュース…
こんな作品を見たあとにあまり知りたくないかもしれませんが(笑)ウィリアム・H・メイシー夫妻は、本作の数年後にちょっとビックリするようなニュースが…。
♦︎ フェリシティ・ハフマン、大学裏口入学での逮捕を語る「やらなければ悪い母親になると思った」(ELLE.comより)
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