
スマホのドロップ機能を通じて届いたのは、初デートの目の前の男性を「殺せ」というまさかの命令…。『ハッピー・デス・デイ』で知られるクリストファー・ランドン監督が贈る新作『DROP/ドロップ』は、設定だけ聞けば間違いなく“当たりそう”な予感。が――実際に観てみたら、主人公の知能戦ゼロ、巻き添えを食うのは善人ばかり。脚本は、ふんわり雑仕上げでした(・ω・)
作品データ
【製作年度】2025年
【製作国】アメリカ
【上映時間】95分
【監督】クリストファー・ランドン
【キャスト】メーガン・フェイヒー
ブランドン・タイラー・スカルナー
【鑑賞方法】7月11日より劇場公開中
(鑑賞時にご確認ください)
あらすじ
幼い息子を育てるシングルマザーのバイオレットは夫の死を乗り越えられずにいたが、マッチングアプリで知り合った男性ヘンリーとのディナーに応じることを決める。高層ビル最上階の高級レストラン「PALATE」の窓際席で会話を楽しむ彼女のスマホに、誰かからスマホのドロップ機能を使ったメッセージが届く。その内容は「目の前にいる男を殺せ。さもなければ、お前の息子を消す」という脅迫だった。ドロップの通信圏である半径15メートル以内から監視され、スマホも完全にハッキングされるなか、絶体絶命の危機に追い込まれるバイオレットだったが……。(映画.comより)
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたもご覧になれます。
レビュー ( 2025・07・11 )
1、シャマラン風?期待した95分…
監督はクリストファー・ランドン、舞台はレストランという密室、そして現代的なスマホ機能を使ったサスペンス設定。さらには、製作にマイケル・ベイの名が。
これはもう、“頭カラッポで楽しめるワンシチュ系スリラー”として期待するしかないじゃないですか。しかも上映時間は、体にもやさしい95分というスマートさ。
『ハッピー・デス・デイ』や『ザ・スイッチ』の監督がそのテンポ感を武器に仕掛けてくるなら、むしろこっちは「当たりに来た」気すらしてました。
またこれまでにも、本作のように“身動きの取れない中で選択を迫られるスリラー”といえば…
◯◯しないと殺される!似た設定の作品

- 『フォーン・ブース(02)』(電話を切ったら殺される!)
- 『テロ,ライブ(13)』(イヤホン取ったら爆発!)
- 『セキュリティ・チェック(24)』(爆弾見過ごさなきゃ、婚約者殺される!)
個人的に、このテの作品のなかで最も好きなのは『フォーン・ブース』。
そもそも、この類いの作品ってテンポも良いし、よほどのことがなければ大きく外れるということはないんですよ。
…そう、”よほどのこと”がなければ…(・ω・)
鑑賞前、『ドロップ』はフィルマークスでは3.2というかなり不穏な評価ではあったものの、「(…自分はイケるのでは…!?)」と、賭けた思いもあったのです(3.5以下の作品はまず劇場行かないw)。
2、“ドロップ”って実際どんな機能?
ドロップ機能とは?
まず、本作のタイトルにもなっている「ドロップ」とは何か?
iPhoneなどApple製品に搭載されている「AirDrop(エアドロップ)」機能のこと。
BluetoothとWi-Fiを使って、半径およそ15メートル以内にいる人と画像・動画・PDFなどを即座に無線共有できるという超便利機能です。
ただし、相手が「連絡先未登録」の“見知らぬ他人”でも、初期設定が「すべての人」に開放されていると、強制的に画像などを送りつけることができてしまうという仕様も。
少し前には、この機能を使って満員電車やカフェなどで“やべぇ画像”を送り付けてくる迷惑行為も横行して、話題になりました。(…それを知り私も(念のため)オフに(・ω・))
作中ではどう使われる?

(C)2025 Universal Studios
本作『DROP/ドロップ』では、この「ドロップ機能」=見知らぬ者からの“見えない脅迫の手段”として使われています。
物語は、マッチングアプリで出会った男女の初デートから始まります…というより、”ほぼ”レストランで展開されるワンシチュエーションスリラーです。
シングルマザーであるバイオレットのスマホに、突如として
- 「お前を見ている」
- 「(自宅の)監視カメラをチェックしろ」
- 「言うことを聞かないと息子の命はない」
といった、不気味なメッセージが届き始める。
しかもこれ、目の前に座っているデート相手・ヘンリーに気づかれないようにやり取りが進むので、彼女は普通を装いながら、ただならぬ恐怖と戦う羽目に…。
やがて命令はさらにエスカレートし、「目の前の男を殺せ」という指示まで出てきます。
“半径15メートル以内のどこかにいる誰か”からの脅迫。まさに「日常のすぐそばにある狂気」を描いた現代的スリラー…
…のはずだったんです、が…。
本作は、プロデューサーのキャメロン・フラーによる“実体験”に基づいて着想されており、フラーは「美しいレストランでディナーを楽しんでいたら、突然誰かからDROPが届き始めて…。最初は気にも留めなかったけれど、食事が進むにつれてその内容がどんどん怖くなっていって……」と当時の驚きと不安を振り返っている。(livedoor ニュースより)
3、え…この展開でずっと進むの?
息子が人質でも、もう少しやりようがなかったか?

(C)2025 Universal Studios
冒頭で「息子を人質に取られている」という状況は明かされます。
確かに、子どもが狙われている以上、脅迫者の命令に従わざるを得ないというのは分かる…分かるのですが…。
それでもこちらとしては、
そういったスリルを味わいたくてこの作品を観ているわけであって。それなのに本作の主人公バイオレットは、ほぼ「指示に従うだけ」の展開が続きます。
主人公に共感できない
犯人に命令されるまま、おかしな態度を取り続け…。
ヘンリーに疑われ「どうしたの?」と心配されても、何も言わず、「大丈夫…」と言って取り繕う、の繰り返し。
知能戦?駆け引き?観察力?そんなものはほぼなく…。
…いや、ないこともないんですよ(?)
何度か、バッティングしたスタッフや客にメッセージを伝えようと努力はするのですが、どれもこれも安易なやり方なので、そのすべてが失敗。
ヘンリーから「帰ろうか?」と気遣われても、(彼が)帰宅すれば息子が危ないので、無理やりキスして引き止めるという謎ムーブ。
正直言って、この主人公に“危機を乗り越えてほしい”と思える場面が皆無。
せめて1度くらい、こちらも「…よっしゃ!」と興奮するような反撃の構えを見せるとか…そういう努力があってのサスペンスじゃないの…??
主人公以外の被害がひどい…笑
この「受け身の女の地獄デート」、ただただ周囲の人間だけが理不尽に巻き込まれていきます。
- 親切な店員さんも巻き込まれて刺され
- 彼女を気遣ってくれていた誠実なヘンリーは銃で撃たれ
- 家で息子の子守をしてくれていた妹も、撃たれ…
被害総出。主人公以外、みんな無駄に痛い目。
そうして、多くの被害が出た後に、物語はようやく別の場所へと舞台を移すわけですが…。
そこに至るまでが長く、結局すべては、他人が(身内も)犠牲になって主人公が動けただけというのが、なんとも残念…。
撃たれたヘンリーをその場に残し、彼の車を借りて自宅へ急行というのも、仕方ないとはいえ、なんかこう…ねぇ(やっぱ、見せ方の問題なのかな)。
4、キャスト唯一の救いは、”彼”!
ヘンリーの“いい人ぶり”に救われた

(C)2025 Universal Studios
正直この映画、唯一心の支えだったのが、ブランドン・タイラー・スカルナー演じるデート相手・ヘンリーの存在。
彼は以前『ふたりで終わらせる』でも、繊細で複雑な感情を抱えた青年役を好演していました。
本作でも「ちゃんと地に足のついた人がいる」というだけで、ちょっと安心させてくれます。というか、彼じゃなかったら、私は本当に最後まで耐えられなかったかもしれません…。
誠実で思いやりがあって、主人公の不可解(すぎる)行動や言動にも気を配ってくれるし、デート相手としては満点どころか神対応。
レストランで不穏な空気を感じながらも、何度も「無理しなくていいよ」と声をかけてくれるその姿は、もうなんというか…
“いい人の無駄遣い”。その一言に尽きます。
ただ……サスペンス的な展開としては、「…これワンチャン、ヘンリーも怪しいんじゃね?…」くらいあっても良かった気はするんですけどね(・ω・)
そんな、観る者に一抹の不安さえ抱かせない”ヘンリー”なのでした?
なのに、なぜこの人を振り回すのか
そして、そんな神人間・ヘンリーは意味不明なキスで引き止められ、結果的に撃たれるという理不尽極まりない展開へ。
しかも終盤、バイオレットに「私の方が救われた」とか言ってませんでした?(私の記憶違い?)
……え、どういうこと?
自分を(一瞬)殺そうとしてた女に言うセリフ(・ω・)?
もうここに至っては、ロマンスなのか情緒なのか、“共依存ホラー”なのかすら分からない。私がしっかり見てなかったかもですが(見ろよ)。間違っていたら、ごめんなさい。
5、コメディに振ったほうが良かった?
あの絶妙なバランスはどこへ…
クリストファー・ランドンといえば、『ハッピー・デス・デイ』シリーズや『ザ・スイッチ』と、ジャンルの“掛け合わせ”が絶妙なヒットメーカーとして知られてきた監督。
彼が脚本を務めた『ディスタービア(07)』も劇場鑑賞しており、何気に昔から注目していた人です。
ホラーにユーモアや人間ドラマを混ぜる手腕は冴えていたし、なにより「バカバカしい設定を、バカになりきらずにちゃんと楽しく見せる」そのバランス感覚が抜群でした。
…が、今回の『DROP/ドロップ』では、その良さがほとんど感じられず。これ、変にシリアス路線にせず、ランドン監督らしいコメディ路線に振ったほうが良かったのでは…?
なぜ、こんな雑な脚本に?
本作の難点は、とにかく脚本の粗さとその見せ方。
…正直なところ、これまでの快作たちとは“別人レベル”の仕上がりに…苦笑。
実は『スクリームVII』を降板して作った“復讐作”だった
その背景にあったのが、監督自身が経験した精神的ショック。
『スクリームVII』降板騒動

2023年、ランドン監督は『スクリームVII』の監督に就任予定でしたが、キャスト降板(メリッサ・バレラの解雇やジェナ・オルテガの離脱)をめぐってSNSが炎上。
しかもそれが本人への誹謗中傷に発展し、監督本人や家族にまで「殺害予告」が届き、FBIが関与するほどの事態に。
♦︎ メリッサ・バレラ解雇をめぐる殺害予告を受け、クリストファー・ランドンが『スクリーム7』を降板(The Hollywood Reporterより)
この出来事で心身に限界を感じ、スタジオの要請を断って自ら降板。その後、心機一転で取り組んだのがこの『Drop』だったと語られています。
「私の最高の復讐は、“楽しい作品”を作ることだった」──ランドン監督、(Vanity Fairインタビューより)
つまり本作は、ランドン監督にとっての“心のリセット作品”だったわけです。
しかし意外だったのは、現在の上映館数が全国でまさかのたった30館。過去のランドン作品と比べても異例の少なさで、まるで“そっと出荷された訳アリスリラー”のような扱い。
出演者は確かに名の知れた俳優ではないですが、作品の完成度以前に「推せる要素が少なすぎた?」という事情もあったのでしょうか…。
6、この作品、どんな人に刺さる?
私的にランドン監督作の中ではハズレ…でも?
フィルマークスの評価を見ると、私のようなド毒舌派ばかりではないようで。
鑑賞前は★3.2だったのが、現在はなんと★3.4まで上昇中…!
レビューを見ると…
という肯定派の意見もチラホラ。
つまり、この作品は“主人公のムーブが気にならない or スルーできる人”にとっては、ある種“ちょうどいいB級スリラー”として成立する可能性があるということかもしれません。
向いている人
向いていない人
ということで?劇場で観るか、配信を待つかは、あなたの“耐性次第”です。
私のように「主人公よ、もう少しがんばってくれ」と思うタイプの人には、この作品は終始イライラとの戦いになるかもしれません(・ω・)
でも、「こういう突飛な設定で楽しめるなら細かいことは気にしない」というタイプの方なら、この“ドロップ地獄デート”も意外とアリかも。
ネトフリオリジナルの話題作。犯人に脅迫され、空港で右往左往!
素敵なヘンリー(ブランドン)がもっと見たい!