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【PERFECT DAYS】何も起きない至高のルーティーンに酔いしれる【ネタバレ】

パーフェクトデイズ

日本の良いところを余すことなく凝縮した作品が、まさかの外人監督に『撮られてしまった』という若干複雑な思いも抱えつつ…笑。日本人以上に、日本を捉えているヴィム・ヴェンダース監督、さすがです。そしてなんといっても、役所広司の圧倒的な存在感。流しでハミガキしているだけで映画になってしまう…とんでもない俳優です。

作品データ

【製作年度】2023年
【製作国】日本
【上映時間】124分
【監督】ヴィム・ヴェンダース
【キャスト】役所広司、柄本時生 ほか
【鑑賞方法】Amazonプライム、U-NEXT など
(鑑賞時にご確認ください)

あらすじ

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。(映画.comより)

年齢制限は?

年齢制限はないので、どなたもご覧になれます。

レビュー ( 2024・12・21 )

1、監督と映画化の過程

ヴィム・ヴェンダース監督が、役所広司を主役に映画を撮ると知ったときは驚きました。映画界の巨匠が、こんなところにまで視野を広げていたのか…と。

ヴィム・ヴェンダース監督とは

『パリ、テキサス』『ベルリン・天使のうたなどで知られるドイツの巨匠。カンヌ・ヴェネツィア・ベルリンの世界3大映画祭すべてで賞を受賞。小津安二郎監督を敬愛。

私は『パリ、テキサス』と『誰のせいでもない』しか見たことがないのですが、実はそこまでハマる監督ではないんですよね…(『ベルリン・天使の詩』を離脱したことは内緒)。

正直本作も、なんだか小難しいアート系作品に仕上がるのだろうなぁなんて勝手に思っていました…。
しかしいざ予告を見てみると、シンプルながらとても誠実なテイストで、アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネート。

惜しくも受賞は逃してしまいましたが、カンヌでは役所広司が最優秀男優賞を受賞。日本で公開されると評判がとても良く、私も配信で早速鑑賞したのですが、確かに紛れもない良作でした。

なぜ『PERFECT DAYS』が作られた?

東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた(映画.comより)

元はトイレの改修計画から始まったものだったとは!映画製作の過程としてはかなり面白いですね。

2、平山にとっての完璧な日々

パーフェクトデイズ
(C)2023 MASTER MIND Ltd.

近年、動画配信サイトなどでも、ルーティーン動画というのは人気があります。人の数だけルーティーンがあり、自分以外の人間がどのようなことに時間を使うのかは、確かに興味深い。

本作で描かれるのは、日本人が忘れかけていたことを思い出させてくれる、平山のルーティーン

朝の目覚まし代わりは、外で誰かが竹ぼうきで履く音。流しでのハミガキ。小さな植物たちへの水やり。いつもの缶コーヒー。決して手を抜かないトイレ掃除。いつもの居酒屋。銭湯。読書…。

ここに書き出してしまえるほど、単調で平凡とも思える平山の日常が、なぜこんなにも惹き付けられるのか。

物に溢れ、人間関係にまみれた現代だからこそ憧れる、スッキリと丁寧な暮らし。
規律正しく、贅沢をせず、しかしそんななか、些細な幸せを見つける…彼にとってはこれが『パーフェクト』の日常

朝、家を出た瞬間に空を見上げる表情。
自転車をこぐ、一瞬の嬉しそうな顔。
馴染みの居酒屋で、客同士のやり取りを見つめる愛おしそうな眼差し。

余計なものがないからこそ、小さな幸せが引き立つ…

毎日変わることのないルーティーンだが、唯一変わるものがある。出勤時に車の中で聞く曲…。数あるカセットープの中から気分に合ったものを選ぶ。

また流れる曲がジャンルに富んでいるのですが、どの曲もとても作品の雰囲気に合っていました。

唯一、平山がシビアなこと

物を大切にする平山が唯一シビアなのは、自身が毎日撮り溜めている写真の選別。出来の悪い写真はビリビリに破って捨てる容赦のなさ。そして、残す写真は銀色の缶に保管しておくのですが、押し入れにびっしりと積み重なる銀色の缶は、若干狂気の沙汰…笑。

3、トイレにもドラマはいっぱい

パーフェクトデイズ
(C)2023 MASTER MIND Ltd.

トイレ清掃は、まさに日本人の良いところが凝縮されたシーンの1つで、平山の人柄もここですべてが分かります。

客が入って来ようとすれば、目を合わせずにそっとトイレを出て、壁の前に立ち静かに待つ。そんな時でも、空を見上げたり、何かに思いを馳せるかのような表情に癒される

そしてもちろん、誰に評価されるでもない清掃にも、手を抜かない。彼自身が『そうしたいから、そうする』。

ときに、個室にこもっていた男の子とのささやかな交流や、トイレに置かれていた紙を介し、知らない誰かとゲームを進めるお茶目さも。相手はランチOLかと思ったのに、結局誰かわからなかった…笑

公園のホームレスである田中泯とは、接触がないまま終わるのもこれまたシュール。(これは平山にしか見えていない『存在』だったらしいですね!)

パーフェクトデイズ
(C)2023 MASTER MIND Ltd.
東京の公衆トイレがスゴい

さすがはトイレ改修から端を発した作品だけあって、東京のおしゃれトイレ探訪と言わんばかりにすごい公衆トイレばかりが出てきます。全部グッドデザイン賞獲ってそう…。

なかでも、スケルトンな壁が、鍵を閉めるとスモークがかかるトイレ。仕組みは一応分かったとはいえ、落ち着かないわ笑!しかし一体、どういう原理なの…(!?)

4、日常シーンすべてが映画になる俳優

パーフェクトデイズ
(C)2023 MASTER MIND Ltd.

本作はもちろん、監督のカメラワークや演出によるところは大きいですが、やはり演じている役所広司の存在感…。こんな、ごくありふれた生活シーンすべてが映画になってしまう、とんでもない俳優です…。

必要最低限しか喋らない寡黙なキャラクターは、これが完成形であり、むしろこの作品に台詞など不要に思える。

モノクロの夢…

本作を印象づけるものとして、平山が毎夜見る夢があります。モノクロ映像で紡がれる、木々のざわめきや自然。ときに回想のような挿入など…。どちらかというと少し不穏な様相の夢が、これまた美しい。


後半になると平山の姪っ子が登場し、少し『映画らしく』もなったりもします。
これにより、平山がなぜこのような生活を送っているのか、元はどのような暮らしを送っていたのかが垣間見え…。そして、父親との確執があったらしいことも。

唯一、平山が涙を流し、感情を表す場面。しかし、これを深く掘り下げることはしません。

私は正直、このエピソードはなくてもよかった気がしました。平山のバックボーンはこの物語にそこまで重要ではない気もしたのですが…。(でも、ここを見る作品でもあるんですよね…)

しかし、これぞ、日本の良いところを余すことなく凝縮した、日本が世界に誇れる作品。とはいえ、ヴィム・ヴェンダース監督が撮ったことに若干の複雑な思いも抱きつつ…笑

濡れ新聞紙を丸めて畳を履くなんて、どこで知ったのだろう…。あ、よく考えたら小津安二郎を敬愛しているくらいだから、昔の邦画も相当見ていそうですね。

日本人の監督たちも嫉妬したのではないでしょうか。まさかの外人監督に『撮られてしまった』とー。



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