邦画は“実話サスペンス”が少ない?
サスペンス映画というジャンルの中でも、“実話ベース”の作品には独特の緊張感があります。
以前、同じテーマで韓国映画の実話サスペンスをまとめてご紹介しましたが、今回は“邦画版”として、国内で起きた事件をもとに描かれた作品を取り上げていきます。
今回も、歴史的事件や大事件よりも、“人の心の歪みや誤解から生まれた悲劇”を題材にした実話サスペンスやドラマを中心に集めました。
子供が被害者となる実話の商業映画が多い韓国と比べると、日本ではこのタイプの作品は少ない印象です。某・有名監督と名前が似ている、あの有名な犯罪者ですら映画化されておらず…。
実際に起きた事件をエンタメ化することに対して、日本では「不謹慎では?」という感覚がまだ根強いのかもしれません。
今回のラインナップについて
今回も、U-NEXTで“見放題”配信中の、邦画実話サスペンスに絞って紹介しています。
1970年代~2020年代の有名作品まで幅広くピックアップしていますので、ぜひ気になるものからチェックしてみてください。
作品は、随時更新していく予定です。
この記事の情報は、記事作成時のものです。鑑賞時にU-NEXTサイトをご確認ください。
作品紹介は、完成度・衝撃・ウツなど3つの指標を設けていますが、あくまで私の独断と偏見で選んでいますのでご了承ください。
【冷たい熱帯魚】(2010)

【実際の事件】
1993年4月〜8月、埼玉県熊谷市周辺でペットショップ経営の男と妻が少なくとも4人を殺害し、遺体を解体・遺棄した「遺体なき殺人」とも呼ばれる連続殺人事件。映画では“熱帯魚店”に設定を変更。
【キーワード】
R18(暴力・過激描写あり)
#愛犬家殺人事件 #倫理崩壊 #血と笑い
完成度 ★★★★★★★★★☆
衝撃度 ★★★★★★★★★★
ウツ ★★★★★★★★★★
- 邦画の実話サスペンスの代名詞とも言える、狂気と現実が交錯する1本。監督自身も後に“問題行動”で世間をざわつかせた。
- 映像も演出も(本当に)容赦なし。このテの作品の中では最高峰のグロさなので、軽い気持ちで再生すると心に傷を負います…。
- “大人向け表現”ではなく、“暴力と猟奇描写”が理由でR18指定となった、数少ない邦画のひとつ。
- “ボディを透明にする”で知られる、でんでんの怪演が伝説級。笑えないのに笑ってしまう地獄。
- 血のりや演技の熱量があまりにリアルで、スタッフも「カットをかけるまで目を背けた」という、最狂の現場だった。
【凶悪】(2013)

【実際の事件】
1999年に発覚した「上申書殺人事件」。死刑囚が獄中から告発したことで、不動産ブローカーによる連続殺人が明るみに出た。告発した本人も関与していたという衝撃的な事実が話題を呼んだ。
【キーワード】R15
#獄中告発 #狂気の告白 #人間の闇
完成度 ★★★★★★★★★☆
衝撃度 ★★★★★★★★★☆
ウツ ★★★★★★★☆☆☆
- 実際の連続殺人事件をもとに、ジャーナリズムが暴く“人間の悪意”を描いた衝撃作。
- 山田孝之の記者役も冷静で、取材の中で少しずつ“狂気の世界”に引きずり込まれていく演出が秀逸。
- 借金をした老人を家族が暗に差し出す場面は、“人が人を売る”という恐ろしさと、言葉を失う不快さが…
- リリー・フランキーの“善人顔の悪魔”ぶりが圧巻で、笑いながら人を殺す姿が背筋を凍らせる。
- 社会の隙間に潜む“悪”を娯楽ではなく現実として突きつける、邦画サスペンスの傑作。
【恋の罪】(2011)

【実際の事件】
1997年3月、東京都渋谷区円山町のラブホテル街近くのアパートで、女性会社員が殺害された「東電OL殺人事件」。昼は企業勤務、夜は別の顔を持っていた女性が被害に遭い、社会の“表と裏”の二重生活が衝撃を呼んだ。
【キーワード】R18
#未解決事件 #二重生活 #3人の女性視点
完成度 ★★★★★★☆☆☆☆
衝撃度 ★★★★★★★★☆☆
ウツ ★★★★★★☆☆☆☆
- 官能と犯罪が紙一重で交差する、冷酷かつ耽美なスリラー。園子温が都市の闇を鏡のように映し出した問題作。
- 実際の事件をなぞるのではなく、専業主婦・刑事・大学助教授という3人の女性に“東電OL”の要素を重ねて描いている。
- 『冷たい熱帯魚』の流れを受けつつ、女性の視点で“園子温的地獄”を再構築した1本。
- ただ“刺激”に全振りしすぎて、肝心のドラマが置き去りになってしまった感。感情の流れや物語の輪郭はやや希薄。
- 水野美紀との大胆な絡みシーンでは、相手役がまさかのアンジャッシュ児島。異色すぎる組み合わせが話題に。
【MOTHER マザー】(2020)

【実際の事件】
2014年、埼玉県川口市で17歳の少年が祖父母を殺害した事件。母親と放浪生活を送っていた少年が、金品目的で祖父母宅を訪ね犯行に及んだとされる。
【キーワード】PG12
#ネグレクト #母子依存 #負の連鎖
完成度 ★★★★★★★☆☆☆
衝撃度 ★★★★★★★★★☆
ウツ ★★★★★★★★★☆
- 救いのない母子関係が延々と続き、酷い大人たちの中で少年が壊れていく様子を見せつけられる2時間…。
- “現実に起きたあり得ない事件”が、いかに歪んだ日常から生まれるかを実感させる説得力。
- 長澤まさみがよくこの役を引き受けたと思うほど、母親像を真っ向から壊した体当たり演技。
- 息子役・奥平大兼の無垢さが逆に痛烈で、母への依存と拒絶のはざまが胸に刺さる。
- 観る側の“共感”を拒む構成で、ラストにはあまりのやるせなさと虚しさだけが残る…。
【誰も知らない】(2004)

【実際の事件】
1988年、東京・巣鴨で母親が4人の子どもを残して家を出て行った「巣鴨子供置き去り事件」。子どもたちは戸籍もないまま、長期間誰にも知られず生活していた。
【キーワード】
#ネグレクト #是枝監督 #小さな希望
完成度 ★★★★★★★★★☆
衝撃度 ★★★★★★★☆☆☆
ウツ ★★★★★★★★☆☆
- 実話をもとに、社会から見えない子どもたちの孤立をリアルに描いた是枝裕和の代表作。
- 柳楽優弥の繊細で成熟した演技が世界的に高く評価され、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。
- 母親役・YOUの“無責任さと痛ましさ”の両面を体現した演技がハマっており、観客に複雑な感情を残す。
- 日常の延長にある静かな地獄を、淡々とした演出と自然光の映像で描き出す。
- 『子宮に沈める』と同じく派手な演出はないが、その分子どもたちの小さな表情や沈黙が、観る者の心を深く抉る。
【子宮に沈める】(2013)

【実際の事件】
2010年に大阪で発覚した「大阪2児放置死事件」。若き母親が、経済的困窮や社会的孤立の中で苦しみながら、長期にわたり子どもたちを自宅で放置。
【キーワード】R15相当
#定点カメラ的 #ネグレクト #静寂の恐怖
完成度 ★★★★★★☆☆☆☆
衝撃度 ★★★★★★★★☆☆
ウツ ★★★★★★★★☆☆
- 当時、マスコミによって連日報道された事件。社会問題を直視した“ウツ系映画”の代表格として、今も語られる問題作。
- 定点カメラ的でドラマ性は薄く、物語というより“事件の記録”に近い。感情を煽る演出を排し、観客を“観察者”の立場に置く構成。
- 日常の時間経過そのものが、恐怖として機能。母親の無言と部屋の変化が、現実の重みを突きつける。
- 育児放棄というテーマの奥に、“孤立する個人”と“無関心な社会”を描く。派手さはないが、観る者の良心を深く揺さぶる1本。
【茶飲友達】(2022)

【実際の事件】
2013年、高齢者専門の“性的サービスを仲介するクラブ”が警視庁に摘発され、約1,000人の男性会員と350人の女性会員が確認された(最高齢は88歳)。
【キーワード】PG12
#高齢者の性 #孤独の闇 #センセーショナル
完成度 ★★★★★★★★☆☆
衝撃度 ★★★★★★☆☆☆☆
ウツ ★★★★★★★☆☆☆
- 題材から“イロモノ映画”と思いきや、実際には高齢化社会の孤独と欲望を真正面から描いた社会派の衝撃作。
- 事件の設定を借りたほぼフィクションであり、描かれているのは家族問題、金銭、就職、孤独といった誰もが抱えうる現実。
- まるで擬似家族のような関係性を築く、クラブの主宰者と女性たち。だが物語の後半、主宰者が受ける仕打ちは、まさに“人怖”の恐ろしさ…。
- 苛立ちや衝撃、共感や感動など、あらゆる感情を色んな角度から揺さぶられる。
- 誰にでもおすすめできる内容ではありませんが、鑑賞した人には必ず得られるものがあるはず。
【罪の声】(2020)

【実際の事件】
1984〜85年にかけて、日本の大企業を標的に脅迫や毒物混入を行った未解決の企業恐喝事件。通称「グリコ・森永事件」。犯行声明に使われた“子どもの声”の謎が、社会を騒然とさせた。
【キーワード】
#グリコ・森永事件 #未解決事件 #もう1つの真実
完成度 ★★★★★★★★☆☆
衝撃度 ★★★★★★★☆☆☆
泣ける ★★★★★★★★★☆
- 未解決の「グリコ・森永事件」をモチーフに、“もしもその裏側に別の真実があったら…”という視点で再構築したフィクション。史実と想像の境界を巧みに行き来する構成が見事。
- 当時、世間を騒がせた“子どもの声”に焦点を当て、その子どもたちが大人になった後に背負う苦悩を丁寧に描く人間ドラマ。
- 静かで誠実なトーンの中に確かな緊張感が流れ、派手な演出がなくとも2時間超えの長尺を感じさせない。
- 実際の報道資料をもとに綿密な取材を重ね、現実味あふれる脚本に仕上げたリアリティ重視の1本。
- 小栗旬と星野源の静かな掛け合いのバディ感も良く、松重豊や梶芽衣子、火野正平らが脇をしっかりと固める。
【福田村事件】(2023)

【実際の事件】
1923年の関東大震災直後の混乱。「朝鮮人が暴動を起こしている」というデマが広がり、香川の行商人ら9名が、千葉県福田村で地元住民に殺害された。
【キーワード】PG12
#関東大震災 #群集心理 #差別の連鎖
完成度 ★★★★★★★☆☆☆
衝撃度 ★★★★★★★★☆☆
ウツ ★★★★★★★★★☆
- 関東大震災から100年の節目に市民のクラウドファンディングで製作。史実として知っておく価値のある1本。
- テーマの重さからスポンサーがつかず、長年タブー視され歴史の中で語られることのなかった事件に、初めて正面から向き合った。
- 物語の大半は村での人間関係を描くドラマパートで、事件そのものが本格的に描かれるのは終盤の30分ほど。
- この構成は、被害者の悲劇よりも加害者の側にいた“普通の人”をどう描くかに焦点を当てた社会派ドラマだったためと考えられる。
- とはいえ、終盤では“なんの罪もない行商人らが酷い目に遭う”展開が待っており、覚悟なしで見るとかなり堪える内容。
【実録・連合赤軍 あさま山荘への道程】(2007)

【実際の事件】
1972年、長野県軽井沢のあさま山荘で、若者たちによる過激な革命運動グループが人質を取って籠城。仲間同士での衝突や暴力も起き、日本中が騒然となった。
【キーワード】
R18相当(暴力・過激描写あり)
#歴史的事件 #倫理崩壊 #精神崩壊
完成度 ★★★★★★★★★☆
衝撃度 ★★★★★★★★★★
ウツ ★★★★★★★★★★
- 実際のあさま山荘事件をほぼ忠実に再現し、理想に取り憑かれた若者たちが破滅へと向かう過程を、淡々としたリアリズムで描く。
- 公式にR指定はないものの、仲間内のリンチなどの壮絶さは常軌を逸しており、鑑賞には心の準備が必要。
- なかでも、女性が女性に嫉妬を剥き出しにした“粛清”シーンは見るに耐えない凄惨さで、理屈ではなく身体が拒絶…。
- 撮影前に俳優陣を山中に“合宿”させ、マネジャーの付き添いを禁止。極限状態を体験させることで、リアルな緊張感を引き出した。
- “癒し系”のイメージが強かった坂井真紀が、自己崩壊に呑まれる女性を演じた異色キャスティング。監督があえて“穏やかな人間の中の狂気”を掘り起こしたいと考えた。
【復讐するは我にあり】(1979)

【実際の事件】
1963年、九州を中心に5人を殺害しながら、78日間にわたり逃走を続けた西口彰事件がモデル。詐欺や偽名を使い、弁護士や大学教授になりすますなど巧妙な手口で逃亡を続けた末、熊本で逮捕された。
【キーワード】
R18相当(暴力・過激描写あり)
#戦後初の大量殺人 #逃亡劇 #時系列が前後
完成度 ★★★★★★★☆☆☆
衝撃度 ★★★★★★★☆☆☆
異色度 ★★★★★★★★★☆
- ”日本中が追いかけた凶悪犯”を描いた作品が、日本のアカデミー賞・主要3部門を受賞するという、まさに”時代”。
- いわゆる現代的なスリラーとは別路線で、1970年代邦画特有の“アート志向の強い演出”の中でも、かなり異色の立ち位置にある1本。
- 当時は極めてシリアスに撮られているが、今見ると“妙に滑稽”な空気を感じる場面もあり、サスペンスを期待すると少し拍子抜けするかも?
- そのひとつに、犯人像が恐ろしくも魅力的でもなく、“ただの人間”として描かれているのが特徴。
- 緒形拳の“がっしりとしたエネルギー”が全編を支配。若かりし倍賞美津子の抜群のスタイルと、『ガンニバル』の”後藤銀”とのギャップにもびっくり…笑
【絞殺】(1979)

【実際の事件】
1977年、東京都で開成高校生が父親に絞殺される事件が発生。息子の家庭内暴力が背景にあったとされる。本作はその事件をベースに、一家に起きた悲劇をフィクションとして描かれている。
【キーワード】
R15相当(タブー描写あり)
#家庭内暴力 #歪んだ愛情 #虚無感
完成度 ★★★★★★★☆☆☆
衝撃度 ★★★★★★★★☆☆
ウツ ★★★★★★☆☆☆☆
- “息子が親に暴力をふるう”という構図が、全国ニュースになったかなり初期の事件。
- 当時は「家庭内暴力」という言葉すら一般的でなく、親子関係の歪みを社会問題として映し出した1本。
- 監督は音羽信子の実夫・新藤兼人。妻に“母親役としての挑発的な演技”を演じさせたことでも話題に。
- 事件そのものより、家族の内側に潜む“愛と支配”のねじれを描く心理劇。
- サスペンスとしてよりも、異様な空気感と当時の倫理観のギリギリを味わう作品。
【丑三つの村】(1983)

【実際の事件】
1938年5月、岡山県の山村で起きた“津山三十人殺し”事件。猟銃・刀・斧を携えた犯人が停電を図った後、村人を次々と襲撃。被害者は約30名にのぼり、事件後に犯人は自ら命を絶った。
【キーワード】
R18相当(暴力・過激描写あり)
#日本初の大量殺人 #村社会の闇 #差別と狂気
完成度 ★★★★★★★★☆☆
衝撃度 ★★★★★★★★★☆
ウツ ★★★★★★★★☆☆
- 村社会の排除、差別、愛憎関係などが背景にあり、「村に裏切られた男」が凶行に及ぶ過程が注目された。
- 当時の風習を描いた作品としても話題になり、夜這い文化など“村の習慣”がリアルに再現された点や、豪華女優陣による体当たりの演技も注目を集めた。
- 主人公が抱える結核による差別や孤立の描写は、当時の社会の実情を映す重いテーマ。
- 殺戮シーンは今見ても強烈で、子どもから大人まで容赦ない描写が続く。鑑賞には心の準備が必要なほどの衝撃度。
- 主演・古尾谷雅人の狂気を宿した演技が圧巻。その後の彼自身の人生を思うと、よりいっそう痛烈に響く。
”四肢を失って戦地から戻った夫”と妻を描く、問題作。
究極の”好きになってはいけない人”とは…