そうはならんやろ、が詰まった不条理スリラー
噂には聞いていましたが、これは確かに(いい意味で)ヘンな映画でしたw 私はなんだかんだ楽しめましたが、黒沢清監督のファンならともかく?菅田将暉のファンで劇場へ行ってしまうと、おや?となってしまう方もいそうです(・ω・)ちょっと笑ってしまうような、不条理な出来事に巻き込まれるという意味では『ボーはおそれている』に少し似たものを感じました。
作品データ
【製作年度】2024年
【製作国】日本
【上映時間】123分
【監督】黒沢清
【キャスト】菅田将暉、古川琴音、奥平大兼 ほか
【鑑賞方法】劇場公開中
(鑑賞時にご確認ください)
あらすじ
転売行為を繰り返す中で少しずつばらまかれた小さな憎悪が、ネットの闇を通るうちに巨大な悪意へと成長し、やがて“集団狂気”となって真面目に転売業に勤しんでいた主人公の日常を破壊していくさまをスリリングに描き出す。工場で働きながら副業で転売屋をしていた吉井。やがて工場を辞め、本格的に転売業に精を出し、少しずつ軌道に乗り出した矢先、彼の周囲で不審な出来事が起き始めるのだったが…。(allcinemaより)
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたでも楽しめます。グロシーンなどもありません。
レビュー ( 2024・10・1 )
1、なんでやねん、とツッコむタイプの『変』だった
黒沢清監督作品は15作品ほど見ているのですが、私の中では当たりでした。正直、もっと小難しかったり意味が分からない『変』だと思っていたら『なんでやねんw』とツッコむタイプの『変』だったのですね。
ストーリーも想像以上にシンプルで『転売ヤー』として不安定な日々を送る吉井は、詐欺まがいなことをして稼いでいたため、多くの人間から恨まれ狙われるという、ザックリとそんな話。
しかしそこは黒沢監督、オーソドックスなストーリーには仕上がらない。本来サスペンスでは使わないような調味料を何種類も入れたら、奇妙ではあるがギリギリ美味しく食べられる奇跡のバランス料理が出来た、みたいな。
コメディにもなりそうな設定を、真剣に、でもちょっとだけピントをズラして描く…このラインを狙って作るってかなり難しいと思うんですが、これが黒沢清スタイル。初回は苦手でも?じわじわと好きになってくるパクチーみたいな映画かもしれません(・ω・)
2、前半ミステリー、後半は昭和レトロな銃撃戦
物語の前半は吉井の周囲で不穏な出来事が続くミステリーの様相なのですが、後半は『これって日本映画でしたよね?』というくらいに銃やライフルがわんさか登場。監督お得意の廃工場という舞台で、昭和レトロな刑事もののような銃撃戦が展開。皆さん、一応一般市民でしたよね(・ω・)?
黒沢監督が『んなもん関係ないんじゃ、とにかく銃をたくさん出したいんじゃ!』と言ったかどうかは分かりませんが(・ω・)ともかく監督的には、やりたいことはほぼやりきったのではないでしょうか…。
個人的に本作で最も怖かったのは、吉井の上司である荒川良々が家にやって来るシーン。このテの目の奥が笑っていないヤバい奴は、荒川良々に任せたら間違いなし。ボーっと家の窓を見上げている姿は、幽霊よりも怖い…!恐怖演出はさすがの黒沢清。
3、4つの『そうはならんやろ』に思わず笑ってしまう
しかし、吉井が恨みを買い、殺しにやってくるのが業者だけならまだしも…
- 退職した会社の上司に居留守を使ったら、殺されるほどに恨まれる
- ちょっとだけ転売ヤー仲間にマウントとったら、殺されるほどに恨まれる
- 恋人の秋子は金目的で吉井と交際していたのはまだしも?銃を向けられる…
- 吉井のアシスタントの佐野は、一体何の組織の、何者なのw 銃の扱いも手馴れすぎているし、吉井に不当解雇させられたにも関わらず『吉井が困っていたから』というそれだけで銃を持って助けに来るとか、アナタが1番怖いんですけど。殺人事件の現場の『おそうじ』も業者に頼んでたしね(佐野の組織仲間?に、松重豊が特別出演)
業者とともに、元上司と転売ヤー仲間までもが徒党を組んで家まで殺しにやってくるってw 不条理スリラーでもあるので、ブラックユーモアにノレないとそのままラストまでいってしまうかも…。
そうして佐野と共に、襲って来た彼らを全員始末した吉井。初めて人を殺めた吉井の『これが地獄の入口か…』に対して『あなたが望めばなんでも手に入りますよ。世界を滅ぼすものでも…』と、厨二全開なエンディング。
いやいやそうじゃあないだろ、ほかに話さねばならない大事なことがあるだろwとも思うのですが、このシーンはまるでこれから異世界にでも行くようなワクワク感とファンタジーな雰囲気でとても美しいんですよね。ま、これはこれでいっかと思わせてしまうような妙な説得力がありました(・ω・)
やはり黒沢監督は、新作が楽しみな監督の1人です!
4、豪華キャストが集結
窪田正孝、荒川良々、岡山天音など、脇役でもかなりの豪華キャストだったのですが、やはり本作で最も興味を惹きつけられたのは、バックボーンが一切謎だった佐野を演じた奥平大兼です。てっきり彼も吉井に恨みを抱くのかと思いきや、フツーにいい奴なんかい!と逆に拍子抜けしました(・ω・)
彼と言えばやはり『MOTHER マザー』での覇気のないキャラクターが印象的なのですが、本作では目力を発揮し、生き生きとした歳相応の役が新鮮で良かったです。
そして、岸井ゆきのと趣里の成分を含んでいそうな古川琴音。『みなに幸あれ』など、なかなかすごい作品にも出演している彼女ですが、本作のクセのある彼女役も良かったです。一見その辺にいそうな普通の女の子という感じなのですが、可愛いも怖いも、どんな役もこなせる女優さんですよね。
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