
物語の整合性よりも、シーンごとの変なノリ、不穏さ、厨二っぽさに乗れるかが肝の『Cloud』。転売ヤー、ネットの悪意、集団での襲撃…と社会派っぽいテーマなのに、気づけば「身辺警護・襲撃者の排除・死体処理の手配」までをも担う、最強アシスタント・佐野くん無双。佐野の正体や吉井に尽くす理由まで、ネタバレありで考察します。
作品データ
【製作年度】2024年
【製作国】日本
【上映時間】123分
【監督】黒沢清
【キャスト】菅田将暉
古川琴音、奥平大兼 ほか
あらすじ
転売行為を繰り返す中で少しずつばらまかれた小さな憎悪が、ネットの闇を通るうちに巨大な悪意へと成長し、やがて“集団狂気”となって真面目に転売業に勤しんでいた主人公の日常を破壊していくさまをスリリングに描き出す。工場で働きながら副業で転売屋をしていた吉井。やがて工場を辞め、本格的に転売業に精を出し、少しずつ軌道に乗り出した矢先、彼の周囲で不審な出来事が起き始めるのだったが…。(allcinemaより)
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたでもご覧になれます。グロシーンなどもありません。
どこで見れる?
レビュー・考察【ネタバレあり】
1、社会派に見えてヘンな映画
黒沢清監督作品はこれまでに15作品ほど見ているのですが、本作は私の中では当たりでした。
転売ヤー、ネットの悪意、住所特定、顔の見えない恨み……と、現代的な題材はしっかり揃っているし、一見社会派映画っぽいです。ただ、いざ鑑賞してみると、そこはやはり黒沢清監督。いわゆる社会派サスペンスではありませんでした。笑
社会派っぽい入口から、黒沢清の変な世界へズルズル引きずり込まれる映画です。
“そうはならんやろ”の連続
正直、本作は内容をきっちり理解しようとすると、面白さが逃げていくタイプ。
吉井を恨む人間たちが集まってくる流れも、途中までは分かります。でも気づけば銃撃戦になり、謎に強すぎる”佐野くん”が現れ、現場処理までサラっと手配する。いや、そうはならんやろw と見る者は何度もツッコむ。
でも『クラウド』は、その“そうはならんやろ”を楽しむ映画なのです。整合性よりも、シーンごとの変なノリ、不穏さ、厨二っぽさに乗れるかどうか。そこにハマると、妙に忘れられない作品になります。
2、吉井は悪人なのか
吉井って、ものすごく分かりやすい悪人というより、感情がほとんど見えない“空っぽな男”なんですよね。
彼女との結婚を考えていると言っても、そこに熱量は感じないし、高専時代の先輩とも渋々付き合っているだけ。
前職の上司からの人望は厚かったが、職場ではどこかやる気がなさそう。そんな吉井が唯一、ちゃんと打ち込んでいるのが転売というのがまた嫌なリアルです。
人との関係には心が動かないのに、金儲けだけには淡々と集中できる。その冷たさが、地味に怖いんですよね。
被害者にも加害者にも見える男
ただ、吉井を単純に「悪い転売ヤー」と切り捨てると、それはそれでちょっと違う気もします。
確かに人を怒らせるだけのことはしている。でも、だからといって集団で追い詰められ襲撃されていいわけではないw
そもそも、彼の周囲にいた人たちも皆どこかがおかしいのです。先輩は吉井を嫌っていたにも関わらず妙に絡んでくるし、上司もストーカー並みに執着してくる。
そんな中で、初めて吉井が心を許せそうな相手が佐野かもしれないという事実。吉井は加害者でもあり、同時にこの変な世界に飲み込まれる被害者にも見えます。
※ここから先はネタバレありで語ります。
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3、佐野は何者なのか?
本作は、ひたすら”佐野くん”の厨二的なカッコよさを浴びる映画だとも言えるわけですが。もちろん、彼の正体は明かされません。
ただ、何かの組織の幹部らしき男から拳銃入りの茶封筒を渡されたり、「今はもう関係ないので…」「会長によろしくお伝えください」という会話からも、元・裏組織の実働部隊、それもかなり優秀な人材だったことは窺えます。
“雇われたい”のではなく“仕えたい”
しかし佐野は一体、なぜここまで吉井に尽くすのかーー。
そもそも吉井は、不当に佐野を解雇しているんですよね。なので、いくら自身を雇ってくれた相手とはいえ、吉井にそこまでの恩義があるとは思えません。
おそらく佐野は普通の意味での労働者ではなくて、誰かの目的を実行することでしか存在できない男なのでは。
普通のアシスタントなら、売上管理、事務処理、荷物整理くらい。でも佐野にとっての“アシスタント”は、
- 身辺警護
- 襲撃者の排除
- 死体処理の手配
- 欲望の実現代行
まで含まれてる…いや含めるなよ(・ω・)
しかし、これらの仕事は非常に”佐野向き”だった。佐野が本来持っている危ない能力を、フル活用できる余地がありますからね。
4、佐野はなぜ吉井に尽くす?
吉井の絶体絶命のタイミングで、佐野は現れます。…しかし、先ほども言いましたが、そもそも吉井は佐野を解雇していた。
ここがまた怖いところで、佐野の中では、たぶん”終わっていなかった”。
「困った時は呼んでくださいって言ったじゃないですか」って、普通に聞けば忠犬のようですが、実際はかなり異常…▼・ω・▼
吉井が雇用契約を切っても、佐野の中の主従関係は切れていない…むしろ、吉井が本当に困った瞬間に現れることで、佐野は自分の存在価値を証明してるんですよね。
ほら、あなたには俺が必要だったでしょう?金儲けだけしていればいい。汚れ仕事は俺がやる。という、めちゃくちゃ怖い再就職活動ww
佐野は吉井を尊敬はしていない
ここも重要で、佐野が吉井という人間そのものを尊敬していたかというと、あまりそうは見えません。
吉井は、決してカリスマでも大悪党でもない。ただ金儲けのことばかり考えていて、倫理も責任感も薄い男…。
でも、以前の組織ほど大きな仕事はしたくない佐野からすると、今は吉井に仕えるぐらいがちょうど良かった。
強い思想を持ったボスだと、佐野はただの部下になる。でも吉井は何も持っていないから、自分が裏側を埋められるという快感。
佐野は吉井に尽くしているというより、吉井を使って、自分の居場所と能力を完成させていたのではないでしょうか。
5、”異常”が普通に混ざる
本作で地味にゾッとしたのが、荒川良々演じる元上司の扱い。
吉井を執拗に追ってくる時点でかなり変なんですが、サラっと「妻子を殺害した逃亡犯」だったことが明かされます。
普通の映画なら、そこは大事件。でも『クラウド』では、ほぼスルー。周囲も「あの人、逃亡犯だったんですよ」と聞いても「どうでもいい…」って、いやどうでもよくないだろw
やっぱりこの“異常を異常として処理しない”感じこそ、黒沢清作品らしい不気味さなんだと思います。
『Chime』と通じる黒沢節
『Chime』は、主人公がだんだんおかしくなるというより、もともと人間の中にあったズレが、音によって表に出てきた感じがありました。
『クラウド』も同じで、吉井を襲う人たちが「被害者だから正しい」わけではない。
元上司も吉井を評価していたように見えて、実は逃亡犯。他の連中も、怒りや恨みを持っているのですが、途中から目的よりも暴力そのものに寄っていく…。
つまりどちらも、まともに見えていた人間の中に、最初から変なものが入っているという怖さがあるんですよね。
『Chime』が“音”でそれを起動させる映画なら、『クラウド』は“ネットの悪意”や“金への執着”でそれが起動する映画、と見ることもできます。
6、ラストは地獄の入り口へ…
ラストで佐野は「…望めば何でも手に入りますよ、世界が破滅するようなものでもね」と言い出す。
それに対する吉井の「…ふっ、最悪だ。ここは地獄の入口か」などこれはもう、真面目に考えるほど厨二なんですが(・ω・)
意味としてはかなり露骨だと思うんですよね。吉井は被害者たちから逃げ切ったのではなくて、よりヤバい世界に招待された。
普通なら、襲撃から生き延びて終わり。でも『クラウド』はそこで終わらず、「君はまだ金儲けを続けられるよ。ただし、今後は暴力と後処理込みの世界だけどね(by 佐野)」という終わり方をする。
このラストで佐野は、吉井を救ったアシスタントというより、完全に“地獄の案内人”になります。
ーーしかしこれを、70歳の黒沢清監督が大真面目に脚本を書いて撮っているというのが、個人的にはかなり胸アツ(・ω・)
恥ずかしさを通り越して、もはや作家性ですよね(褒めてます)。この面白テンションまで含めて?『クラウド』の妙な味わいになっているのだと思います。
こちらの黒沢清ワールドも、登場人物みんなが変!でも怖い!
古川琴音主演。「…どゆこと!?笑」なキモ怖・田舎ホラー!
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