
山崎ナオコーラ原作・松居大悟監督による恋愛ドラマ『手』。濃厚なラブシーンを含みつつも、描写が非常に繊細で、むしろ女性にこそ刺さる作品。「ロマンポルノ50周年企画」の一環として製作された本作ですが、ユーモアがミックスされた絶妙なバランスと、リアルな描写に共感しきり。さわ子の「おじさんが持ってるショルダーバッグの“ショルダーの長さ”が可愛い」という、常人には理解しがたい萌えポイントにも注目。前半ネタバレなし、後半ネタバレありで考察。
作品データ
【製作年度】2022年
【製作国】日本
【上映時間】99分
【監督】松居大悟
【キャスト】福永朱梨、金子大地 ほか
あらすじ
年上の男性ばかりと付き合ってきたおじさん好きのヒロインが、ひょんなことから同年代の同僚と体を重ねる関係となったことで自らの恋愛観を見つめ直していく姿を描く。(allcinemaより)
年齢制限は?
R18指定なので、18歳以下の方はご覧になれません。
どこで見れる?
見放題 | 課金 | |
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Amazon プライム | ー | ー |
U-NEXT | ー | ー |
Netflix | ● | ー |
hulu | ー | ー |
Disney+ | ー | ー |
ゲオ宅配 レンタル | ー | ● |
レビュー ( 2024・03・22 )
1、大胆な描写はむしろ必要だった

松居大悟監督の映画『手』は、“ロマンポルノ・リブートプロジェクト”の第一弾として作られた作品なんですが、これが思っていたより(相当に)刺さりまして…。
この記事では、映画『手』の感想や見どころを、ネタバレありでじっくり語っていきたいと思います。
公開時から評判が良かったので気になっており、ジャケからもR指定だとは思ったのですが。実はこんな経緯の作品とはまったく知らずに鑑賞したので、なかなかの描写に驚きました(・ω・)
しかし、その事実を知って見たとしても、大半の人が驚くのでは…。あまりに正統派なラブストーリーということに。
「いやらしいもの」というイメージを払拭し、現代風にアレンジされているのでとても見やすいです。
同監督の『ちょっと思い出しただけ』は少し映画っぽいところがチラつきましたが、本作は見ているほうが恥ずかしくなるほどの、リアル系邦画。
有名俳優ばかりを使ったメジャー作品よりも知名度があまり高くない俳優たちによるドラマのほうが、やっぱり生々しさは上ですね…笑
本作に関しては、ここまでのラブシーンがあったからこそ深みのある物語になったし、むしろ必要だったとすら思いました。
2、おじさん好きな主人公

(C)2022日活
面白い作品って、冒頭5分で分かります。
おじさん好きで、マスキングテープで可愛らしくコラージュしたおじさんアルバムを作っているさわ子。
『薄毛』『指毛』などにジャンル分けするプロの仕事。おじさんの持っているショルダーバッグのショルダーの長さまでもが可愛いという、もはや常人には理解できない萌えポイント。
だからと言ってコメディテイストというわけではなく、見た目もいたって普通の女性なのがこれまた興味深い。すでに何冊もあるアルバム作りには妹も参加しており、仲が良さそうでなによりです(・ω・)
そしてやはり、彼女の周りには歳の離れた男性が多く、元カレもそんな人ばかり。職場の上司とも危うい関係性を築いている。たぶんさわ子の元カレを全員集めたら『慰労会ですか?』な空間だと思う。
しかし、そんなさわ子に同年代の『彼』が現れる。職場の同僚である”森”だった。
3、手練れた男には気をつけろ

同年代の男性になど興味のなかったさわ子だったが、そんな彼女に何やら関心を寄せていそうな森。彼の態度を察したさわ子が『…飲みに行きます?』と誘うと、動揺してデスクに足をぶつけてしまう。
また、飲みに行く道中で手をひらひらさせて『…つないだりしません?その手…』とか言ってくる(まさに手練れの所業)。
『手、繋いでもいい?』でなく、あくまで自身は繋ぎたい意志を示しつつも、相手に断りやすい余地も与えるという。絶対”わかって”やってますよねこのテの男は。…でもまぁ、落ちるんですけどね(?)
社内での何気ない同僚同士の会話。飲み会での2人だけの秘密のやり取り。家での、行為への始まりなど…。それはもう、こちらが盗み見ているような背徳感。
そんなこんなでトントン拍子にラブラブな関係になる2人ですが…ということは、これから何か…(嫌な予感)。
※ここから先はネタバレ全開で語ります。
その前に作品を見ておきたい…という方は、こんな方法で見ることもできます。
記事の最後にまとめてあります
4、付き合う”確約”はなかった2人
まさか、森に他の女がいるとかそっち系じゃないよね?笑…なんて思っていたら、その”まさか”だったー。
それどころか、浮気相手だったのはさわ子のほうで、森には婚約者までいたって…これはヒドい。…あんなアプローチの仕方で、あんなにさわ子のことを好きそうだったのに…笑!?
コトが終わったあとにさわ子の”好み”をメモにとったり、『…こう(いう関係に)なる前に寅井さんの好きなところを詩にしてたんだけど…』とか、笑いながらメモ見せてくる奴が…!?
…怖っわ!このテのタイプは、迷惑防止条例違反で取り締まったほうがいいよw
…しかし、実は2人の間にはいわゆる”付き合う”という確約はなかった。森に告白されたわけでもなければ、さわ子はこの関係について確認することもせず…。
森からしたらこれは好都合だったろうし、最初から”面倒ではなさそうな女”認定されていたのかもしれない。
元々さわ子自身、森とこうなる前までは既婚者の元カレと関係を持ったり、どちらかというと流されやすいタイプ。ただ、そんな生活を続けていたさわ子に、ようやく本当の恋愛が出来そうだと思った矢先の…だからなぁ。
さわ子がふいに『…好き』と口にしたときの、森の『え…』みたいなリアクションは伏線だったのか。
ところどころ敬語だったり、決して”さわ子”と下の名前で呼ぶことはせず『寅井さん』と苗字で呼んでいたのも、伏線か…(・ω・)
自分からの意思表示もあまりしないさわ子は、詮索するような女にはなりたくないと思っていたかもしれない。
いやでも、現実世界でコレをやられたら、たいていの女性は疑わないんじゃないだろうか…。しかもイケメンてのがこれまた(錯乱)。
一見、好青年風の、ちょっと不器用っぽくもある男性が浮気しているという…生々しさ最大級。
コトの最中にチラッと見えた『…誕生日おめでとう!これからもずっと一緒にいようね♪』という彼女からのバースデーカードとか…そのまま◯んでしまいたいわ(白目)。
5、しかし厄介なのは…

婚約者に浮気を疑われそうになったと言う森。『…それで…彼女に許してもらえるの…!?』と問うさわ子に『全力で否定したから…』ってのも、これまたうわぁ…という。
さらにやるせないのは、森の正体がバレたとき、さわ子は感情に任せて責めることはせず、冷静に質問を投げかけたこと。たぶんこれには、年上男性とばかり交際してきた彼女の独特の落ち着きもあったのだと思う。
『”彼女”と結婚します』と明言する森(怒)。彼からしたら、結婚前にさわ子とちょっと遊ぼうくらいにしか思っていなかったのだろうけど。
ただ、それならばさわ子のことをまったく好きでなかったのかと言えば、そうでもなさそうということ。ここが厄介なところで、それなりに恋愛感情もあったのでしょうね…2番目だったというだけで。
さわ子との別れでは『すごく楽しかった』とか号泣してたし……(それも演技ならマジで逮捕されてくれ)
しかし、あそこまで心を動かされる言葉を投げかけられ、完全にその気にさせられ、数え切れないくらい身体を重ねて、……自分のほうが浮気相手だったって……あ”ーー!やっぱり前科一犯ですわコレはw
ある意味…というよりフツーに胸くそなんだけれど…あまりにリアルすぎる1人の女性の”性活”に、恋愛ものを見て初めて『…ぁあ』というワケのわからん声が出てしまい。
決して他人事などでなく、同世代の女性のなかにもドキッとした人は少なくないのでは。もはや映画とは思えないリアルさが、ここにはありました。
6、父親との関係性

さて、物語はどん底で終わるのかと思えば、そんなこともなく…。
おじさん好きであるさわ子が、唯一関係を築けない年配の男性…それが『父親』だった。
妹とは会話を交わすのに、どこか自分を避けるかのような父の態度。難聴気味になっていた父ではあったが、あきらかさわ子の問いかけには返事をしない。
…が、父を耳鼻科に連れて行くこととなったさわ子。バスの中で父がボソっと言った言葉から、これまでの絶妙な距離感が縮まっていき、何かがほぐれ始める。
『お父さん、旅行にまた連れて行ってよ…』と言う約束には泣けました…。さわ子も父親に愛されたかったんだと。彼女が歳の離れた男性とばかり付き合っていたのには、こんな背景もあったのかもしれない。
この2人には、ほんと『きっかけ』だけだったんですね。
天真爛漫な妹とは反対に、繊細なさわ子だからこそ、不器用(すぎる)父はどう接していいのか分からなかったのでしょう…。…でもさ、おみやげはせめて2人分買ってきて…(;ω;)笑
父とのエピソードでエンディング、というのは良い構成でした。
7、覚悟のにじむ役者の演技
福永朱梨(さわ子)

しかし、さすがR18というだけあってなかなかなラブシーンにはビビりましたw
これまで『本気のしるし』と『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』の2作でしか見たことのなかった、福永朱梨のただならぬ演技力…。特に『コワすぎ!〜』とは真逆ともいえる役で、元からこういう女性だとしか思えないほどナチュラルな、ほわ〜んとした柔らかい雰囲気。
彼女が切望して勝ち取った役だそうですが、同世代でここまで出来る女優ってなかなかいないんじゃないでしょうか…。売れ方や作品の傾向は、門脇麦なんかとちょっと似ているかな?という。
金子大地(森)

金子大地も、やったなぁ…(色んな意味で)。
彼の作品はこれまでに7本ほど見ていますが、全部!役の雰囲気が違うんですよね。
本作では(クズだけど)正統派イケメンな役でしたが、彼からしてもかなり転機となった役だったんじゃないでしょうか。…そういえば、門脇麦と付き合ってましたっけ笑
そして『猿楽町で会いましょう』『手』『ナミビアの砂漠』と、カップル鬱映画の出演が多いですねw(『猿楽町〜』も鬱映画・ラブストーリー編)で紹介しています。
『鬱なラブストーリー』や『正統派ラブストーリー』のオススメはこちら!


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