
坂元裕二脚本の『花束みたいな恋をした』が見事にハマったので、本作も期待を込めて劇場へ行ったのですが…率直な感想は『変わった映画だなぁ…』と笑。『花束〜』や『怪物』などと比べると対象年齢は低めで、”児童文学のベストセラー”のようなテイスト。多くのジャンルが詰め込まれており、見る前のイメージは間違いなく覆されるかと。気まずいシーンなどもないので、家族みんなで見られる健全で清い作品とは言えます。笑
作品データ
【製作年度】2025年
【製作国】日本
【上映時間】126分
【監督】土井裕泰
【キャスト】広瀬すず、杉咲花
清原伽耶、横浜流星 ほか
【鑑賞方法】現在公開中
(鑑賞時にご確認ください)
あらすじ
古い一軒家に暮らす美咲、優花、さくら。家族でも同級生でもない3人だったが、一緒に楽しく気ままな日々を過ごして、もう12年になる。強い絆で結ばれた3人は、それぞれに届きそうで届かない“片思い”を抱えていたのだったが…。(allcinemaより)
年齢制限は?
年齢制限はないので、どなたもご覧になれます。気まずいシーンなどもありません。
レビュー ( 2025・04・15 )
1、邦画でこのテの作品は初めてかも
幽霊目線の作品というのは、それこそ洋画ホラーでは有名タイトル含め多くありますが、こんなカラーの邦画でまさかコレをやるとは…笑
しかし、既存のテーマでもしっかりと独自のカラーを入れ、これまでに見たことのない作品に仕上げてくるあたりはさすがの坂元裕二。
だって、こんなにも美しい幽霊、見たことあります…?
日本を代表する清純派女優である、広瀬すず、杉咲花、清原伽耶の3人を起用したところを見ても、本作での幽霊は純真無垢な少女たちというコンセプトだったのでしょうね。
…と思ったら、彼女たちに当て書きされた脚本だそうで!清原伽耶ってあんなイメージ…?笑
新しい”幽霊”の概念

(C)2025「片思い世界」製作委員会
- ご飯も食べるし、トイレも行くし、身じたくもする。(3人のファッションもさりげなく同系色でコーディネート)
- 毎日、決まった時間に学校や仕事にも行く。
- 身体は成長するので、家の柱で成長記録。
- 同じ空間の別次元に(?)いる。
- こちらから何かに触れることは出来ないが、相手が自分とぶつかりそうになると自分は飛ばされる(ただ、人間以外のものには触れられることも出来たりと?その定義はよく分からず…)
- 周りからは見えていないというだけ。
なかでも、身体だけは成長するというのは初めて見ました。笑
2、”幽霊”となった原因

3人が幽霊であるという事実は、序盤で明かされます。
物語が始まると、わりとすぐ違和感を感じるんですよね。キレイすぎるというか…なんだか現実味がないことに。
実は鑑賞前にネタバレ系だということを耳にし、それで興味が湧いたというのもあったのですが、見る前あれこれと想像してしまい…。
ということは『3人が死んでいる』か『3人が実は1人の人格』かな…?後者が有力だったのですが、前者でした。笑
また、『片思い世界』というタイトルから、見る者は恋愛映画だと思うはずー。しかし、本作は恋愛メインのキラキラ映画などではないのです。
彼女たちが”幽霊”となった原因…。
実は、彼女たちは12年前に学校で起きた『無差別殺傷事件の被害者』だったのです。合唱クラブに属していた3人は逃げ遅れ、命を落とすこととなります(事件そのものの描写はありません)
学校内で起きた無差別殺傷事件というと、実際に大阪の小学校で起きた事件を思い起こさせますが、作品とは関係ないようです。
3、3人が『思う』相手とはー

タイトルにもなっている『片思い世界』。
恋愛映画ならばたいてい『片想い』が一般的なのに『片思い』?とは思ったんですよね。
そして、これが物語に大きく絡んできます。
序盤で彼女たちが幽霊であることが判明し、一体ここから何が起きるのかというと…。
美咲(広瀬すず)は、同じ合唱クラブの典真に恋していました。
優花(杉咲花)は、大好きな母親のことを思っていました。
それぞれが『思っている』人物に会いたいと願います。
ただ、さくら(清原伽耶)が会いたい相手…それは、身内や友人などでもなく『事件の犯人』だったのです。
『片思い』は、恋愛要素のみを表していたわけではなかったので、この表記だったのですね(!)
さくらの”会いたい人”には一瞬ゾッとしてしまいましたが、会いたいには違いありません。
確かに、自分がこうなった原因を作った人物に会いたいと思うのは、分からないでもないですが…。
美咲、優花、さくらと、花に関連する名前が付いています。優花の母も花屋さんで働いていました。
4、パート担当のような描かれ方

え〜、ここからはほぼマイナスな感想になってしまうので、本作が大好きな方は引き返してください…w
3人それぞれに会いたい人物がいるのは良いのですが…。
実は彼女らにはこれ以外のエピソードはほぼ出て来ず、キャラクターのバックボーンの掘り下げが甘いようにも感じました。
美咲
片想いの典真のこと以外の情報はあまり出てきません。家庭が貧しかったらしく、いつもお腹を空かせていた。彼女のお腹が鳴る音を聞いて、典真はコンビニへ肉まんを買いに行き、”事件”から逃れることとなります。
優花
母親との絆など、3人のなかでは最も家族背景が分かるキャラクター。
さくら
最も不思議なのが彼女…。家族やその他の情報がなく、素性がほぼ分からず。会いたいのは犯人だけって…そんなことある!?笑 その理由も、週刊誌に”犯人が出所”の記事を見たシーンしか描かれておらず。なんと言っても、自身を殺害した犯人に会いたいのですから、もう少し説得力のある理由付けが欲しかった。
典真
事件をずっと引きずり、才能があったピアノもやめてしまう。これは分かるとしても、事件後12年間も美咲のことを想い続けるには、ちょっとエピソードが少なすぎる…(!)
なんだか、
恋愛パート=美咲
家族パート=優花
犯人関連?=さくら
のような短絡的な描き方が気になってしまいました。
それぞれあと数分足してでも、彼らのバックボーンに関するエピソードが欲しかった!せめて、幼少期のエピソードは欲しかったところ。
これだけでも、感情移入の仕方がまったく違ったと思うので…。
『流浪の月』では広瀬すずの恋人を演じていた横浜流星。これまた本作とは真逆のとんでもないDV野郎だったので(笑)本作では結ばれて欲しかった…という個人的感想。
5、突然のSF要素に心躍るも…

優花は大学で素粒子理論を学んでいるのですが、その理論でいうと『人間は素粒子でできているから、発見してもらえたら、元の世界に戻れるのでは…!?』と。
また3人はラジオ番組を聴くことが日課となっていたのですが、なんとこのラジオパーソナリティは元・死んだ人間で、現在は生き返り元の世界に戻ってこられたというのです(!)
”亡くなっている誰か”へ向けて放送を続けており『元の世界へ戻るには、自身が思っている人物と心を通わせる必要がある。そして特定の日に、ある灯台へ行けば元の世界へ戻れる…』と。
何やら唐突に出てきたSF要素に若干の不安を抱えつつも、3人が元の世界に戻れるのならこれはこれで感動しそうだし、いっか(笑)?なんて思っていたのですが…。
エンドロールで松田龍平の名前が出てきたので、どこに?と思ったら…パーソナリティの声が松田龍平だったようです。いつものダラっと感がなくまったく分かりませんでした!笑。てっきり中村倫也あたりかと。
6、演出次第では傑作だった

本作は、設定やストーリーは決して悪かったとは思いません。ピントさえ合うべきところでしっかりと合っていれば、私も確実に楽しめたと思うんですよね。
というのも、何が気になったのかというと演出。もう本当に!これだけです。
商業映画の邦画は『分かりやすさ』を重視して、映画としての自然さを欠いてしまうことも多いですが、本作も例に漏れずで…。
奇しくも、横浜流星が出演している『正体』でも同じようなことを言っています…笑
説明ゼリフや”劇”っぽさ
例えば、学校で彼女たちの慰霊碑を娘に説明する父親のシーン。
これがあまりに説明セリフで、『しっかり暗記してきたんだな』という俳優のことまでもがチラつき始めると少しずつ冷めていく自分が…。
そして、”説明”を聞いていた3人が、父親のセリフを真似して3人で一句ずつリピート。うーん、劇っぽい…。
設定上、コントっぽくなってしまう
設定上こうなるのは仕方ないのですが、生きている人間には自分たちのことは見えていないので、3人が現場に居合わせているような状況が生まれるわけです。
となると、相手に一方的に話しかけたり、相槌を打ったりというシーンが出てきます。適度ならば良いのですが、こちらの感情を過度に誘導しそうなところもあったりで…。
特に、ラスト。
美咲は、亡くなる直前に音楽劇のシナリオを書き上げていました。
典真がそれを発見し、典真と美咲が交互に”読み合わせ”をするシーンには、タイミングやその長尺っぷりに、いやいやいや…wとなってしまい…。
最も泣けるシーンだったはずなのに、まさに劇っぽさに涙が引っ込んでしまいました…。
美咲が書いた劇のシナリオというのが、あの年齢の少女が書いたものとは思えないクオリティにビックリ!笑。あんな人名、どうやって出てくるの…。
ステレオタイプが過ぎる
さくら同様、事件の加害者に会いたいと思った人物が…。
優花の母親(西田尚美)でした。
優花の母親が犯人と対峙する、物語でもかなり重要なシーン。もちろん、そこには優花を含め、美咲とさくらもいます。
実は、優花が亡くなったあとに再婚し娘をもうけていた母。自分への愛情はもうないのかもしれないと不安になっていましたが、母が犯人にぶつける思いから、愛情を確認する優花。
”聞こえない”母親の横で相槌を打ったりします。ここまでは感動的で良かったんです。
しかし、犯人のまるで反省していない態度に業を煮やした優花の母が、なんとナイフを持ち出し犯人を襲おうと(!)
しかも形勢は逆転し、犯人に襲われてしまう母!
このとき、優花の母と犯人が車内に。3人は外に…。なので、なんとか母を助けようと、ボンネットに乗ってガラスを割ろうとしたり車を蹴ったり…。(もちろん物理攻撃はできません)
犯人像にしても、こすられまくったような既視感バリバリなキャラクター。
優花の母が『…娘を返して!』とあまりにステレオタイプなセリフを吐き、小道具のようなナイフを取り出すって…(;ω;)
娘を亡くした母の怒りを表すのに、こんな演出しかなかったのでしょうか…??
言っておきますが、演じている俳優たちは皆、演技は上手いんです……上手いはずなんです!笑
ただ、これもあるあるなのですが、キャラクターの行動やセリフがひどいと演技までひどく見えてくるという…。
7、児童文学のような健全で清い作品

結局、3人はどうなったのかー。
ラジオパーソナリティの話を信じ、灯台へ行って『飛べー!!』と掛け声をかけるのですが、あえなく失敗。
結果的には残念でしたが、これはこれで微笑ましく、3人は現状を受け入れこのまま”ここ”で生活していくのです。
そして、事件前に出場することが出来なかった合唱コンクールに(勝手に)参加し、気持ち的にも晴れやかな気持ちになった3人。
物語の落としどころとしてはこれで良かったと思います。
ただ考えてみると、恋愛、家族ドラマ、サスペンス、SF、ファンタジーと、かなりのジャンルを詰め込んでいるんですよね。
”生の世界に戻れるかもしれない設定”は要らなかったのでは…という気がしないでも。
多くの要素を入れたことにより、この物語が最も言いたいことは何なのか?という重要なところがぼやけて、散漫になってしまった印象も受けました。
そもそも、本作のターゲット層がよく分からないのですが…。近年の『花束みたいな恋をした』や『怪物』などと比べると年齢層はかなり低めかと。
なんだか児童文学っぽいというか…児童文学の傑作!という触れ込みならば、至極納得です笑。ポプラ社からこんなお話出ていそうじゃないですか(今もあるんですかね?)



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